コラム
» 2007年02月09日 11時45分 UPDATE

科学なニュースとニュースの科学:【第5回】難問奇問と天才奇人数学者 〜ポアンカレ予想の解決〜

作家/脚本家/翻訳家/批評家であり多くのテレビアニメのSF設定も手がける堺三保氏に、気になる科学の話題をピックアップして独自の視点で語っていただく連載コラムです。今回は、数学上の難問ポアンカレ予想とそれを解いたとされるロシア人数学者について取り上げます。

[堺三保,ITmedia]

 昨年の12月22日、アメリカの科学誌「サイエンス」に、2006年の科学的成果トップ10が発表され、その第1位に数学上の難問だった「ポアンカレ予想の解決」が選ばれた。……と、書いてる筆者も、実は「ポアンカレ予想」がどんなものなのか、いまいちピンときていない。いや、ネット上はもちろん、一般向けの参考書まで買ってきて読んだんだけど、これがもう全くイメージもろくにつかめないのだった。2006年の科学ニュース第1位だっていうのに。

 なんでも、ポアンカレ予想というのは「単連結な3次元閉多様体は3次元球面S3に同相である」という予想らしい。なんのことだかわかりますか? わたしには全然わかりません。

 わたしにもなんとなく想像できそうな、もうちょっと直感的な言い方だと「どんな掛け方をされた輪ゴムも無理なくはずせるような、手の上に乗る1つの物体は、滑らかに球に変形できるはずである」ってことらしい。

 つまり、ドーナツみたいに真ん中に穴が開いてて、どうしたって球には変形しないような物体は、輪ゴムのかけ方によっては、ハサミかなんかで輪ゴムのどこかを切断しないと外せなくなっちゃいますよ、ってこと。

 まあ、これならなんとなく、分かったような気になりますわな。え、ダメですか? ちょっとドーナツとテニスボールとひもを持ってきて、試してみてくださいよ。逆に、なんとなくイメージできた人は「なんで、そんな当たり前のことを仰々しく言わねばならんの?」と思うかもしれない。

イラスト

 ところが、これって、直感的には「確かにそうだよね」とは思えるけど、数式を使って数学的に証明しようとすると、とたんにものすごく難しくなっちゃうのだ。ま、だから「そうなるはずだけど、証明できてません」という意味で「予想」って言うわけですよ。

 1904年にこの「予想」をするだけして、しちめんどくさい証明を後世の人に託しちゃったのが、フランスの数学者アンリ・ポアンカレ(1854-1912)なんで、これを「ポアンカレ予想」と称するわけ。

 このポアンカレ予想を解いたのが、グリゴリー・ペレルマンというロシアの数学者なんだけど、この人が実に変わった人なのだ。

 1966年生まれで現在40歳。1982年に国際数学オリンピックにおいて全問満点で金メダルを獲得。サンクトペテルブルク大学で博士号を取得。ニューヨーク州立大学ストニーブルック校、カリフォルニア大学バークレー校で研究をしたのち、ロシアに帰国、ステクロフ数学研究所に所属。その間、ポアンカレ予想の証明だけじゃなくて、さまざまな数学的業績を上げるも、なんと2005年12月に退職届を提出し、それ以降同研究所に現れていないというのであるよ。

 だいたい、この人がポアンカレ予想の解決を宣言したのは2003年のことなんだけど、それも査読つきの論文誌に投稿したとかじゃなくて、プレプリント(要は、正式な論文じゃないリポートみたいもの?)をさっさと発表して、本人はそれっきり。

 2006年になってようやく他の人たちによる検証によって「どうやら正しいらしい」とされたことで、数学の権威ある賞であるフィールズ賞が、ペレルマンに授与されたものの、本人は「自分の証明が正しければ賞は必要ない」とこれを辞退。

 さらに、このポアンカレ予想は、「ミレニアム懸賞問題(Millennium Problems)」の1つとして100万ドルの賞金がかけられてるんだけど、それにもまったく興味を示してないんだとか。それどころか、現在は故郷で母親と、わずかな貯金と母親の年金を頼りに細々と生活しているとかで、消息は不明なんだとか。

 変人天才数学者というと、ポアンカレ自身にもいろいろ逸話があるし、最近では『ビューティフル・マインド』なんて小説や映画にもなったジョン・ナッシュという人もいたりしたけど、このペレルマン氏ほど才能と奇行にあふれた一代の天才もなかなか他にいないような気もする。

 ちなみに、先にあげたミレニアム懸賞問題というのは、アメリカのクレイ数学研究所(Cray Mathematics Institute)が2000年に発表したもので、現在未解決となっている数学上の難問7つに、それぞれ100万ドルの賞金をかけたというもの。

 1つは今回どうやら解決したみたいだけど、残り6つはまだまだ解かれてないみたいだから、我こそはと思われた方はぜひ挑戦してみては?

次回はダークマターの話題を取り上げます。2月23日掲載予定)

堺三保氏のプロフィール

作家/脚本家/翻訳家/批評家。

1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。仕事一覧はURLを参照されたし。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事ができる映像演出家。

ウェブサイトはhttp://www.kt.rim.or.jp/~m_sakai/、ブログは堺三保の「人生は四十一から」


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