「最速ブラウザ」争いは無意味だ
MSはIE 8が最速だと主張している。ブラウザメーカーがどこもかしこも「最速ブラウザ」の称号獲得に多くの時間と労力をつぎ込んでいるのはなぜだろう。
米Microsoftが最近実施した一連のテストによると、Internet Explorer 8(IE 8)は現在市場に出回っているブラウザの中で最速だという。もっとも、Google ChromeやFirefox、Safari、Opera、WebKitといったブラウザについて同様の主張を展開している調査結果を探すのは、そう難しい作業ではないはずだ。
それならば、こうした最速ブラウザに関するテストの数々をどう解釈すればいいのだろう? どのテストが最も妥当なのだろう? まあ、本当を言えば、映画『ミートボール』でのビル・マーレイの口グセと同じで「そんなのどうでもいい!」といったところだ。
まったくその通りなのだ。最近のWebやWebブラウザに関して言えば、ブラウザを選ぶ際に速度を気にする人など、ほとんどいない。
確かにかつてはブラウザの性能が重視された。わたしも実際1990年代にブラウザの比較を行った際には、必要以上にパフォーマンステストを行ったものだ。
だがそうしたテストの際には、わたしはストップウォッチを使ってブラウザ間の性能差を測定しており、その差はときには数分に達することもあった。
一方、最新のWebブラウザの速度テストでは、性能差はしばしば1000分の1秒単位で計測されている。つまり、今ではブラウザ同士の速度の差など、瞬きでもしている間に見落としかねない程度のものということだ。
実際問題、今ではどのブラウザも十分に高速だ。もしWebのパフォーマンスが遅いようなことがあっても、まず最初に確認すべきはISPのパフォーマンスやサイトの問題などであり、ブラウザの速度などは最後の最後にチェックするポイントだろう。
ではなぜブラウザメーカーはどこもかしこも「最速ブラウザ」の称号の獲得にこれほど多くの時間と労力をつぎ込んでいるのだろう? わたしが思うに、なぜならそれは「性能は各種の基準の中でも唯一、メーカー各社が自らのよりどころとすることのできる非客観的な基準だから」ではないだろうか?
大抵のユーザーは「動作が気に入っているから」とか、「機能やUI、あるいは拡張性が気に入っているから」とか、あるいは「とにかく快適だから」といった理由でブラウザを選択している。一方、ユーザーが気に入るようなブラウザを開発するよう開発者に指示するのは難しいが、自らのブラウザが競合ブラウザよりも高速だと主張できるような方法を編み出すよう開発者に指示するのは、それと比べればはるかに容易だ。
ただし今のところ、そうした取り組みはまったくの時間と労力の無駄遣いだ。もしブラウザメーカー各社がその分の労力を「ブラウザのセキュリティ強化」といった、もっと重要なタスクにつぎ込んでくれていれば、われわれユーザーもはるかに多くの恩恵を享受できていただろう。
確かに、ブラウザの性能はいずれ重要となるかもしれない。とりわけ、JavaScriptのパフォーマンスに関してはそうだ。今は1000分の1秒単位の速度差でも、今後アプリケーションの規模がさらに大きく複雑になっていけば、その差が広がり、もっと際立つようになると予想されるからだ。
もっとも、今の時点では、それなりに高速なブラウザ同士の性能差を測定しているにすぎない。そんなのどうでもいいことだ。
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