オレはリベンジしたいんだ大口兄弟の伝説(1/2 ページ)

「オレは、みんなをあっと言わせたい」「オレはリベンジしたいんだ。そのためには全国トップ営業になりたいんだ!」――。所長の和人に対して、ショージとタカシはそう答えた。

» 2008年12月10日 15時00分 公開
[森川滋之,ITmedia]

あらすじ

 ビジネス小説「奇跡の無名人たち」第1部の続編「大口兄弟の伝説」――。営業所の存続をかけた営業コンテストを前にして、吉田和人の作戦が功を奏し、順調に契約数を増やしていたC市営業所。だが、問題もあった。それは、大口兄弟のタカシとショージである。この2人、大企業しか攻めていない。見込みだけなら5000回線ぐらいある。全部成約したら営業コンテストは楽勝で全国トップだ。しかし、どれもこれも時間がかかりそうな企業ばかりだった――。


 翌日、珍しく大口兄弟が営業所で残業していた。

 和人は、2人の様子を聞こうと思ったが、その前にちょっとしたいたずらを思いついた。すばやく買い物に行くと、2人に気付かれないように所長室に戻った。数分間ゴソゴソしてから、今度は事務所に入っていった。いるのはタカシとショージの2人だけである。

 「おお。がんばってるな」

 「なんだ、所長か。遅いですね」

 「お前たちこそ」

 「なんか用事ですか?」

 「そう邪険にするなよ。腹減ってるだろう」

 「そう言えば、飯食ってないなあ」

 「お前たち貧乏だから、ステーキなんか食ったことないだろう。買ってきてやった」。そう言って、和人はものものしい包みをタカシとショージに渡した。C市では有名なレストランの名前が書いてある。肉のにおいがぷんぷんしている。

 「お、これはすげえ。悪いっすね、いただきます」。タカシが喜んで包み紙を開けると出てきたのは、コンビニのハンバーグ弁当だった。

 「何じゃ、こりゃあ」。まるでジーパン刑事のようにショージが叫んだ。

 「オレのおごりだ。遠慮するな」

 「絶対、仕返ししてやる」。タカシがつぶやいた。

 それでもよほど腹が減っていたのだろう。2人ともものすごい勢いで平らげていった。2人が食べ終わって、一息ついたのを見計らって、和人は口を開いた。

 「なあ、お前たち。3カ月も成約がなくて生活苦しくないか?」

 「まあ、ちょっとしんどいけど、この辺は東京と比べると家賃も物価も安いし、なんとかなります」。タカシが答えた。

 「そうか。でも、ほかのみんなは順調に歩合を稼いでるぞ」

 「小せえ、小せえ、500や600の歩合なんか」。ショージが偉そうに言う。

 「それでも、ないよりはマシだろう。ロバさんなんか、これで5年はチベットで暮らせるって言ってたぞ」

 「所長は、オレらに中小に回って欲しいんすか?」

 「そうは言っていない。ただ、お前らの希望が知りたいんだ」

 「希望なら、ずっと言ってる。大企業の契約を取って、一気に歩合が欲しいんだ」

 「なんで、そんなに大企業にこだわる?」

 「オレは、みんなをあっと言わせたい」。ショージが子供っぽいことを言う。

 「タカシは?」

 「オレはリベンジしたいんだ。そのためには全国トップ営業になりたいんだ!」

 和人は全国トップ営業の報奨金のことを忘れていた。確か200万円だった。よもや自分の営業所から全国トップが出るなんて考えてもみなかったので、忘れていたのだった。

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