価格競争に巻き込まれないビジネスを作りたければ、機能ではなく、付加価値に着目すべきです。高級フレンチと低価格居酒屋の価格戦略の比較から、自分なりのビジネスが成立するヒントを探りましょう。
成功する一握りの人々だけが実践する、共通の「思考の法則」を知るには、いったん私たちが常識だと考えてきたルールをリセットする必要があります。そして、彼らの行動や考え方に注目し、そのエッセンスを吸収して、その根底にある思考のサイクルを身に付けることが重要です。
成功者はみな、次にあげる5つのビジネスプロセスを何度も、高速回転で循環させています。私は、キーワードとなった5つの英単語の頭文字をとって「5Aサイクル」と呼んでいます。
さて、ここで問題です。
飲食店において売り上げの方程式は、何と何の掛け算でしょうか? そう、客単価×客数ですね。居酒屋のように客単価が安ければ、もうけが少なくなります。低価格でも収益性を高めようとすれば原価を抑えるか、客数を増やすほかありません。
それでは、次の問題です。客数は何と何の掛け算でしょうか? そう、収容可能人数×回転数ですね。しかし、収容可能人数は店舗スペースに依存するものですし、スペースを増やそうとすれば、地代家賃や店舗構築のコストがかさみます。
そのため、飲食店において収益性を高めるためには、先ほどの計算式から、客当たりの粗利を増やすか、回転数を増やすほかありません。もし、同じ原価率で同じ収容人数の店だとすれば、回転数を増やすほかありません。高級フレンチが居酒屋なみの客単価で収益を得るためには、回転数を数倍にする必要があります。これは本当に実現不可能なのでしょうか?
従来、そんなことを考える高級レストランは皆無でした。ところが、超高級食材なのに居酒屋なみの客単価×超高回転というこれまでの高級レストランにはないアプローチで、業界にイノベーションを起こしつつある企業があります。ブックオフ創業者の元社長坂本孝氏が設立したバリュークリエイトが展開する「俺のフレンチ」です。
俺のフレンチは、チェーン店舗の多くが立ち飲み屋のような立食形式です。ラーメン屋などを居抜きで借りるため、大幅に出店費を抑えられる半面、店舗はあまり大きくなく、例えば東京の恵比寿店で50席程度です。店内も簡素でお金をかけていません。
一方で料理のクオリティには非常にこだわっています。三つ星レストランのジョエル・ロブションなど超一流レストランから腕利きのシェフを採用し、キャビアやトリュフ、フォアグラなどの高級食材を惜しみなく使っています。
さぞかし高いのかなと思いきや、一品480円からと超リーズナブル。お酒を飲んでも客単価は3000円程度ですから、相当コストパフォーマンスの高い店です。そのため、どの店も大人気で店の外まで長蛇の列になるくらいです。
通常のレストランでは食材原価を3割程度に抑えるのが鉄則ですが、この店では惜しみなく高級食材を使うため、原価率はなんと45%。ここにも料理の品質へのこだわりが感じられますね。
ここで、前述の飲食店のもうけの方程式を思い起こしてみましょう。客単価が居酒屋並みに低いと仮定したとき、高級フレンチのように食材の原価率が高いビジネスでもうけようとすれば……そうですね、顧客の回転数を上げるほか利益を確保する方法はありません。しかし通常の高級フレンチでは、夜の部で1回転すればいい方です。2回転すればもはや大人気の店です。
ところが俺のフレンチでは、客単価が低いため1日2回転では赤字になるそうです! ただし、実際にはなんと夜だけで3〜4回転しているため、利益はしっかり確保できています。50席の店で4回転すれば1日200人が訪れるフランス料理の店になります。
坂本社長は「どんどん原価を使い、それでも利益が出るのなら絶対負けないビジネスモデルができ上がる」と自信を見せます。超高級フレンチだけど、ビジネスモデルは居酒屋やラーメン屋、そういうアイデアのマッシュアップともいえるでしょう。
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