職場でよく聞く「言っても無駄だし」「言っても何も変わらないし」――。でも、こうしたケースではときどき、言う相手を間違っていることがある。正しい相手に正しく伝えなければ、変わらないのは当然だ。
職場のコミュニケーションに悩んでいる人も多いのではないでしょうか。「上司にこんなことを言ったら怒られるかもしれない」「部下には気をつかってしまうし」――。
本コラムでは、職場で役立つコミュニケーション術をご紹介します。具体例を挙げながら「なるほど! こういうやり方があるのか」「これなら自分でもできるかもしれない」と感じてもらえるよう、筆者が見聞きした出来事をちりばめています。
明日から……ではなく、いますぐに試すことができる「コミュニケーションのヒント」をご紹介しましょう。
総合病院の口腔外科外来で、自分が呼ばれるまで待合室のベンチに座っていた時の出来事だ。
口腔外科の隣には皮膚科がある。その皮膚科を受診するために来院したらしい若い女性が、口腔外科の案内に目をとめ、受付窓口の看護師にこう話しかけた。
「あのぉ、ちょっと聞いていいですか? 今日は皮膚科で来院しているんですが」
「はい」
「私、ちょっと前に歯が痛くなって、近所の歯医者さんに行ったら、虫歯だというので、痛み止めを貰ってそのままにしているんですけど、その薬を飲み続けていたら、気のせいか、味覚がなくなってきた感じがして……。それって、虫歯が進行しているんでしょうか?」
「……ええと、かかりつけのお医者さんがいるのですか?」
「はい、近所です。味覚がなくなってきたし、やっぱり、病院に行ったほうがいいでしょうか?」
「ええ、そうですね、何が原因かは分かりかねますが、かかりつけ医があるなら、まずはそちらに」
「そうですよねぇ。ありがとうございました」
……
フシギな会話だなあと、思わず聞き入ってしまった。
この女性、皮膚科に行く途中でたまたま歯科の窓口が目に止まったので、最近気になっている歯の症状について、受付の看護師さんに尋ねたのだろう。しかし、通りがかりの看護師さんに、どんな回答を期待していたのだろう。
仮に、看護師さんが「あ、大丈夫ですよ。味覚異常なんて気のせいですから」と言ったらどうしたのか。(そんなことを看護師さんが言うわけもありませんが)安心したのだろうか? 「ま、いいか、味覚は異常だけど、放っておこう」と気にするのをやめたのだろうか。「そんな事態であれば、今すぐ早くかかりつけの病院に行くべきです」と言われたら、それに背中を押されて、ようやく、地元の歯科にかかるのか?
これは、病院での出来事だが、こういった「しかるべき相手に言わず、無関係な誰かに言う」というケース、意外にあるように思う。
ある時、若手層への研修でのグループワーク中、20〜30代の方たちが愚痴り始めた。
「上司が分かってくれない」
「そうそう」
「上司がムチャ振りをする」
「あるある」
「上司が……」
グループワークのテーマは職場の課題だったので、その中に多少の愚痴が混ざるのは構わないのだが、とはいえ、少し数が多かったので、問いかけてみた。
「上司に”私はこう思っている”って話しています? 例えば、“今、その仕事を引き受けるのは無理。スケジュール調整をしてほしい”とか“誰かサポートを付けてほしい”とか、何でもいいけれど、上司に伝えてみました?」
すると、「言っても無駄だし」「言っても何も変わらないし」という答えが返ってきた。
もし、仕事において何らかの課題があるならば、課題の当事者と話さなければ一歩も先に進まないのに、と思うのだが、やはり「しかるべき相手」にはなかなか言えないようなのだ。
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