私も新入社員のときには、本当にたくさんの失敗をやらかした。それを今の新入社員に話すと、目を輝かせて聞いてくれる。「自分だったらどうするか」「自分もそういう風になるだろうから心得ておこう」などと自分に置き換えて考える機会にもなるようだ。
例えば、本部長からの内線電話を課長に取り次いだときのこと。あとで「電話で応対するときに声が暗いから、もっと明るく取り次ぐように」と課長に叱られたことがある。愛想よくしていたつもりだっただけに驚き、自分が考える以上に声のトーンに気をつけないと、相手に伝わらないと反省した――と、いう話を新入社員に伝える。すると、彼らは、現場のイメージがわき、自分も気をつけようと思うらしい。
かかってきた外線の取次ぎがうまくいかず、切れてしまったこともあった。真っ青になって先輩におそるおそる「申し訳ありません。今の電話切ってしまいました」と言うと、先輩がのんびりとした声で「大丈夫よぉ〜。用があるから電話かけて来たのだから、もう一度かかってくるわよぉ」と言ってくれ、再び電話がかかってきたときに落ち着いて対応できた。そんな体験談でも、ドキドキしながら「どうなるんだろう」とわが身に置き換えて聞き、後半のくだりでホッとするそうだ。
長い社会人生活からみれば、ひとつひとつはささいな出来事だ。しかし、そんな小さな経験が、これから仕事に慣れていくべき新入社員には響く。年齢差など気にする必要はない。自分がかつて体験したことを新入社員に話す機会をつくることが重要なのだ。仕事に早く慣れるためには、生々しい体験談のほうが役に立つのだ。
気をつけたいのは、“自慢と説教”にならないようにすること。逆に新入社員との心の距離を広げてしまい、逆効果になるからだ。自分の“キズ”を後輩に見せられるだけの器量、それが新入社員に接する先輩に求められる資質である。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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