水資源は武器――海外事例で考える「水道水ビジネス」:樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」
わたしは約20年間で4カ国に駐在した。水道環境が整っていない中で、わたしと家族は20年を過ごし、水の大切さと日本の水資源の豊富さを体感した。日本の水資源と、水道の技術は強力な武器である。
わたしは33年間商社に勤務して、約20年間で4カ国に駐在した。
ナイジェリアのラゴス、サウジアラビア王国のリヤド、ベトナムのハノイ、ネパールのカトマンズだ。これらの4カ国に共通したある1つのことを、わたしは学んだ。それは水道環境である。
近代化したサウジアラビアでは、水道環境が改善しているというが、駐在した当時の水道環境は、いずれの国も劣悪だった。
ナイジェリアのラゴスでは、水道とは名ばかりで、ほとんど水が出なかった。水屋がタンク車で持ってくる水を建物の地下水槽にためていて、テーブルの上には、ミネラルウオーターがいつもあった。地下水槽にためていた水を使う時は、必ず煮沸し、フィルターを通していた。
オイルブーム以前のサウジアラビアは、首都でさえ2週間に1度しか水道水が出なかった。何の予告もなく出た水道水を、家のいろんなところに予備の水としてためておくのだが、それでも水は常に不足していた。ベトナムのハノイでは、水道水を飲むと、下痢を引き起こしたり、アメーバ赤痢になるとされていた。それでも市民は、水道水を煮沸し飲んでいた。
4カ国の中で特にひどかったのがネパールだ。水道の水圧がなく、各自が勝手に水道管にポンプを直結して水を引っ張ったり、浅井戸からの水(ほとんど生活汚水)をくみ上げて、水道水に混ぜて使っていた。家の風呂の水を見ていても、ありとあらゆるゴミが入っていた。さすがに風呂とトイレだけで、口に入れることはできなかった。
このように水道環境が整っていない中で、わたしと家族は20年を過ごし、水の大切さと日本の水資源の豊富さを体感したのである。日本の水資源と、水道の技術は強力な武器なのだ。
実際に、日本のいくつかの都市では、水道関連の技術や運転管理のノウハウ、保有する資産などをビジネスにしている。例えば大阪市水道局は、関西経済連合会、東洋エンジニアリング、パナソニック環境エンジニアリングと共同で、ベトナムのホーチミンの水道システム構築に向けた調査を実施。川崎市でも、JFEエンジニアリングがオーストラリア・クイーンズランド州で行う雨水を再利用した生活用水の供給事業に、水質・水量の管理や料金徴収など事業運営面で協力している。
また東京都、大阪市などが、高度浄水処理水をペットボトルやアルミボトルなどに詰めて有料で販売し、話題にもなった。このような水道水ビジネスは、さらに発展していくはずだ。海外から水で学んだことは、水に流したくないものである。
今回の教訓
「東京水」は東京都がペットボトル1本(500ミリ)100円で販売。
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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)
1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら。アイデアマラソン研究所はこちら。
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