日本バーベキュー協会に聞いた震災時に役立つサバイバルスキル:防災・防犯ラボ
ビジネスパーソンに向けたサバイバル能力を日本バーベキュー協会が伝授! バーベキューと防災の意外なつながりとは!?
「震災や災害時に役立つ、サバイバルスキルを身に付けたい!」
最近、よくそんなことを考えます。電気やガスが断たれてしまったら、大抵の文明利器は使えなくなります。エネルギーに頼った生活って、けっこうもろいものじゃないでしょうか。そんなことを考えていた矢先“防災対策としてのバーベキューの有用性”に関する記事をインターネットで読み「これだ!」と思いました。
バーベキューって、楽しげで、カジュアルで、童心に帰れるイメージがありますよね? それに男くさくてたくましい響きもあります。バーベキューのスキルと知識をどうやって防災に生かすのか、記事で取り上げていた日本バーベキュー協会にお話を聞いてきました。
日本バーベキュー協会とは(http://www.jbbqa.org/)
新しいバーベキュー文化の発展を目的に、アウトドア情報センターの下城民夫さんが設立した任意団体。バーベキュー検定試験、バーベキュー産業交流会、BBQ(バーベキュー)レシピコンテスト、バーベキュー学校(キッズBBQ)、各種イベントやセミナーを通じて、バーベキュー文化の普及と啓蒙を目指す活動をしています。
日本バーベキュー協会は主に東京で活動していますが、2011年7月までは兵庫県の宝塚市が活動拠点でした。会長の下城さんは阪神・淡路大震災の被災者でもあり、そのときの経験があって防災士(※)の資格も取得しています。バーベキュー協会の活動を始めて“サバイバルスキル”効果に気付き、防災の側面からも活動をしています。
(※)特定非営利活動法人日本防災士機構によって防災の知識や技能を持つと認められた人のこと。民間資格
スキルや道具は、さほど大事じゃない
協会に訪問するまでは「バーベキュー」−「アウトドア」−「生肉のさばき方」−「火の起こし方」−「食べられるキノコの見分け方」のように、ジャングルで生き延びるためのザ・サバイバルな内容を予想していました。そこで、鼻息荒く下城さんにアドバイスを求めたのですが「いえ、そういうスキルは、別にいらないですよ(笑)」とやんわり言われてしまいました。
あれ? アウトドアのスキルだから、方法論中心のお話になるのかと思っていましたが……。
下城さん アウトドア用品の知識、包丁さばき、火の起こし方などは、実は震災ではさほど役に立ちません。というのも、日本は先進国ですから、数日もすれば物資や救助が届きます。じきにガスや電力も復旧します。よって、そこまでのサバイバルスキルを発揮せねばならない原始的な状況にはなりませんよ。
そうなんですか……。ちょっと肩に力が入り過ぎていたようです。
――では、どんなバーベキュースキルが防災に役立つのでしょう?
下城さん 別に難しく考えないでください。防災のために何かやるぞって力まずに、取りあえずバーベキューやキャンプをすればいいんです。軽いノリで構いません。バーベキューはしょせんレクリエーションなのですから。遊びながら失敗してみてください。例えば肉を焦がしたり、テントが倒れたりすれば、自然と「次はどうしよう」と工夫しますよね? そうやって、自然とトライ&エラーを繰り返すようになります。そんなことが防災につながるの? と思うかもしれませんが、つながるんです。
――すごくマニアックな心得が必要だと構えていたのですが、バーベキューの敷居は低いみたいです。この言葉で、気が楽になりました。
アウトドアは、引き算だ
――ただ「気軽にやれ」と言われても、バーベキューやキャンプって道具をそろえるのが大変じゃないですか。お金もかかるし、保管場所だって必要です。その辺りはどうでしょう。
下城さん まだ力んでいらっしゃいますね。最初から道具を買いそろえなくて構いません。持参した食材でバーベキューだけやって、宿泊はコテージだっていい。できることだけ自力でやり、できないことは別の方法で割り切って解決すればいいじゃないですか。
――なんとなくコテージに泊るのは軟派というか、中途半端というか、スキルのなさを露呈した軟弱なイメージがあったのですが、そうでもないみたいですね。
下城さん 軟弱なアウトドアでけっこう。テントで寝なければならないルールはありません。そういう意味では、雑誌や書籍をうのみにしなくていいです。あれは物を買わせたいという思惑もあるわけですから。テントって最初は物珍しくて楽しいけれども、飽きることもあるんですよ。足りない物を買い足すのではなく「これはなくても何とかなる」「限られた資源でやりくりしよう」というスタンスで考える。これを僕は“引き算のキャンプ”と呼んでいます。
なるほど、ちょっとはできそうな気がしてきました。
何もない状況で、何をすべきか考える
――しかしまだ不安もあって、アウトドアって行き帰りがおっくうじゃないですか。海や山に出掛けるのは一日仕事だし、引き算とはいえ機材もそれなりの量になります。車に積んで移動するのも、ゴミの持ち帰りも、車が臭くなるのもちょっと……。
下城さん だったら、そこも引き算で考えて、庭でキャンプをしてみては? (家に庭がある場合には)庭にテントを張ってそこで寝てみる。それだけで新鮮なアウトドア体験になる。小さい子供なら喜びます。庭で寝るだけでも、暖を取る工夫、寝やすいポジションの確保、風除けの方法、いろいろ考えさせられてイザというときの予行演習になりますよ。“何もない状況で何をすべきか考えること”で、知らず知らずのうちにサバイバル能力が鍛えられているんです
――それなら自分でもできそうだし、なんだか楽しそうですね! 移動もないし、荷物の積み下ろしもないし、思い立ったらすぐできるのもよいです。
下城さん 手ぶらでバーベキューを楽しめるキットも出回っていますよ。炭があらかじめ入っていて、カンタンに着火できる使い捨てグリルというのがあって、材料を乗せて焼くだけです。東急ハンズだと2000円くらいで売っています。ただし類似商品もあって、品質にばらつきはあるから失敗することもあるでしょうが、それもまた経験です。
――そんなグリルがあるなんて、知りませんでした。今までバーベキューって肉や調理の知識が豊富で、機材をカンペキにそろえた人だけの聖域みたいなイメージがあって、実は敬遠していました。素人の私でもこれならすぐに始められそうです。
下城さん でしょう? これなら自分にもできるかもと思えるレベルまで、ハードルを下げればいいだけです
人とつながるために、バーベキューをする
参考として、下城さんに海外のバーベキュー事情も聞いてみました。日本とは文化にも楽しみ方にも、大きな違いがあるようです。
下城さん 欧米には公園にレンガで作ったバーベキュー場が幾つもあり、無料開放しています。利用者は材料を持ち込んでその場で焼き、家族や友人と飲み食いして交流する。それだけでなく、公園で出会った他の家族とも交わったりします。焼く場所は占領するのではなく、譲り合ってやりくりする。炊事場も、日本だと水道が横一直線に並ぶスタイルですが、海外はサークル状になっていて自然に顔が向き合う。だからあいさつも交わすし、会話も始まる。共に交わり、共に食す、こういう共食文化があるんです。
日本のバーベキューの雰囲気とはすいぶんかけ離れていますね。日本のバーベキューよりも、開放的で楽しげな雰囲気が伝わってきます。
バーベキューを介した近所づきあいのコツ
最後に、下城さんがバーベキューを介したご近所づきあいのコツを教えてくれました。
下城さん バーベキューで地元の人たちをつなぐこともできるんですよ。ただ、普通に家の庭でバーベキューをしてしまうと、煙やにおいで周囲に迷惑を掛けてしまいますよね? 私が勧めるのは「明日、庭でバーベキューをするのでぜひ立ち寄ってください」と事前に声を掛けてしまう方法です。
――とはいえ、知らないご近所さんから急に呼ばれてもかえって不審に思うのでは? 普段付き合いのない人だと、気軽に顔は出しづらいですよね
下城さん 誘われた方が「じゃあ顔を出してみるか」と思わせるコツとしては、仰々しいイベントにしないことですね。焼いたお肉を紙皿に乗せてひょいと渡す、程度のカジュアルなノリでよいと思います。そこまでしても来ない人はいるでしょうし、やっぱり警戒されるかもしれない。でも誰だって誘われれば悪い気はしないし、少なくとも苦情は言いにくくなります。
なるほど! ただ庭のないマンション住まいの人はどうしたらいいんでしょう?
下城さん 庭のないマンションの場合ですか? 最近ではBBQができる共有スペースを売りにしたマンションもありますが、そうでないとちょっと難しいでしょうね。そうした場合には、最終的にバーベキューでなくても、ホームパーティを開くなどしてコミュニケーションを図る方法もあるでしょうね。何度かやって、顔を出す人が現れれば食事を振る舞う。仲良くなるキッカケになりますし、人となりも分かる。結果、コミュニティーの絆が強まります。
あえて相手の懐に飛び込むような大胆なこの方法、目からウロコのグッドアイデアだと思いませんか? 私は、その手があったかとヒザを打ちました。
考えてもみてください。誰だって「地域のコミュニティー作りが、防犯と防災に有効だ」とは分かっていると思うんです。でも、だからといって「さあ今日から仲良くしましょう」と素直に声を掛け合えないのもまた事実。打算的な気がする、変人扱いされたらイヤ、過去のしがらみが……など、いろいろ考えてしまいますよね。その壁を取り払うのに、バーベキューっていいと思いますよ。
下城さん 私がコミュニティーの重要性を説く理由は、阪神・淡路大震災の体験によります。あのとき、死者のほとんどは5分以内に死にました。死因は(家屋・家具の倒壊による)圧死です。津波のようにタイムラグがなくすぐ被害が発生したため、自衛隊と警察の救助は遅れました。あの状況で最も威力を発揮したのが、一般市民の助け合いです。急を要する緊急時、力強いのはご近所さんなのです。そのためにも、近所と顔見知りになっておきたいものです。その心理的なガードを下げる工夫としての“食を通じた近所付き合い”なんです
経験に裏打ちされた貴重なお話が伺えました。余談ですが、印象に残ったのは下城さんのこんな言葉です。
下城さん 阪神・淡路大震災時の自衛隊の食事配給は大変ありがたかった。今も感謝しています。ただ……被災経験者じゃないと分からない心理かもしれないですが、配給食をもらうことが、だんだん心苦しくなってくるんです。人間、プライドってものがあるのでしょうかね。それに、暖かい食事もほしくなる。缶詰とパンばかり食べてはいられないんです。
こういうお話を聞くと、やはり最低限のサバイバルスキルは習得しておきたいと思いました。読者の皆さんも、ご自身の生活にバーベキューやアウトドア要素を取り入れて、楽しみながら防災に備えてみてはいかがでしょうか?
著者紹介:中山順司(なかやま・じゅんじ)
シックス・アパート株式会社 / スキナヒト製作所 所長。1971年生まれ。Covenant College(米国)卒業後、携帯電話キャリアでマーケティングと営業に携わり、2000年にネット業界に転身。旅行予約サイト(現楽天トラベル)で観光旅行コンテンツビジネスを立ち上げ、その後始めた個人ブログがキッカケで、ブログソフトウェアベンダーのシックス・アパートに(現職)。
2010年12月、フツーの男女のフツーの出会いをプロデュースすることに特化した、世界一マジメな恋愛インキュベーション・プロジェクト「スキナヒト製作所(β)」を設立。
- 連絡先: jnakayama@sukinahito.jp
- Webサイト: スキナヒト製作所
- 誠ブログ: 20年前の留学を、淡々と振り返る記録
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