確定申告シーズン到来――サラリーマンと個人事業主の税の違いを考える:大増税時代(2/4 ページ)
いよいよ確定申告の受付が始まった。とはいえ、多くのサラリーマンがそもそも確定申告とは何かよく分からないのが本音ではないだろうか。今回は確定申告の基本的な話から、個人事業主とサラリーマンの税金の違いについて触れる。
ではサラリーマンと個人事業主の税金の違いをみてみよう。サラリーマンと個人事業主の所得税を計算する式を比べると以下のようになる。
所得税の計算式 | サラリーマン | 個人事業主 |
---|---|---|
(1) | 給与の収入金額(年収)−給与所得控除=給与所得 | 売り上げ−経費=所得 |
(2) | 給与所得−各種控除=課税所得 | 所得−各種控除=課税所得 |
(3) | 課税所得×税率=所得税 | 課税所得×税率=所得税 |
(1)はかなり違う。(2)はほぼ同じ。(3)はまったく同じだ。(1)の売り上げと経費は業種によって相当な差がある。卸売り系の業種では売上高は非常に大きくなる。5000万円の売り上げがあっても仕入が4000万円なら差額は1000万円。そこから事務所兼倉庫の費用、配送の経費、水道光熱費、ガソリン代……といった経費も引くと所得として残るのは500万円となる場合もある。
自宅でひたすら原稿書きをして、取材に出掛ける必要もなく、PCがあればほぼ完結する仕事で原稿料を550万円得たとしよう。PC代(毎年買うわけではないが)、電気代といった費用が年間で30万円ほど掛かったとすると520万円の所得となり、先ほどの5000万円の売り上げのケースより稼いでいることになる。
多少極端な例で比較したが、業種、職種によってお金の動きに大きな差があるのが個人事業主だ。周りを見渡しても個人商店は数多あるし、テレビを付ければ○○評論家、□□コンサルタント、××アドバイザー、△△家といった人々を目にする。プロスポーツ選手、アーティスト、カメラマン、ライターなど個人で仕事をしている人はたくさんいる。傾向としてはガッツリ稼いでいる人は会社(法人)化し、ボチボチとやっている人は個人事業主というケースが多い。
サラリーマンの必要経費といわれる給与所得控除と個人事業主の経費は大いに異なっている。給与所得控除はある種架空の経費で実際に支払った経費とは関係なく年収から自動的に算出されたものなので、実際に支払をしなければ手取りとして残るお金だ。個人事業主の経費は実際にお金を支払っているので手取りとして残らないお金となる。サラリーマンの給与所得控除と個人事業主の経費を比較すると、圧倒的にサラリーマンの方が恵まれている。
個人事業主同士の比較でも売り上げと所得が逆転するケースがあるように、売り上げ2000万円の個人事業主より年収600万円のサラリーマンの方が所得、課税所得、納税額が多くなるケースもある。よって計算式がかなり違うように、実質的な中身もサラリーマンと個人事業主は全く違っている。
先ほどの(2)は、式としてはほぼ同じだが、各種控除の中身はサラリーマンと個人事業主では一部異なっている。各種控除には配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除、医療控除、社会保険料控除などがある。この中で実質的に差があるのが社会保険料控除だ。
支払った額が全額控除となるのは同じだが、厚生年金と国民年金、健康保険と国民健康保険は中身に相当な差がある。厚生年金は4月から6月のの給料を平均し標準報酬月額表に当てはめて9月から翌年の8月まで定額を納める仕組みだ。現在の掛け率は16.412%で会社が半分負担するので個人負担は8.206%となっている。
国民年金は年収に関係なく定額で現在の金額は1万5020円。20歳を過ぎた大学生も年収1000万円の個人事業主も同じ金額を納める仕組みだ。
以下は厚生年金と国民年金の年収と納める年金額の差をグラフにしてみたものだ。年金額に切り替え時期が異なることや、厚生年金が年収ではなく標準報酬額から計算するという点は無視しているが、おおよその金額差は把握できるはずだ。
横軸が年収、縦軸は年間の年金納付額。青線は厚生年金の会社負担分を含む納付額。赤線はその半額の個人負担分だ。厚生年金は月額標準報酬の下限と上限(賞与の上限を含む)があるので両端は定額となっている。緑線は国民年金の納付額。国民年金の納付額がいかに少ないかが分かるだろう。個人の納付額と比較すると年収220万円のサラリーマンと同程度、会社負担を含む納付額と比較すると年収120万円のサラリーマンより少ない額となっている。
年金を払いたくない(納めたくない)と思う人には国民年金の額の少なさは魅力的に見えるかもしれない。将来の年金額を増やしたいと思う人は会社負担がある厚生年金は圧倒的に魅力的に見えるだろう。付加年金や国民年金基金で納付額を増やすことは可能だが、誰も負担はしてくれないので、自分自身で払うしかないのが現実だ。このように年金に関しては、サラリーマンと個人事業主で大きな差がある。
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