多くの企業が陥る、リーダー不足という“勘違い”:時代が求める「少人数チーム」の作りかた(2/2 ページ)
先が読めない今のような時代には“1人で何もかもこなせる”ことより“仲間と協力して物事を進める”ことのほうが重視されます。その方法さえ分かっていれば、チームリーダーの役割を担うことができるのです。
良いチームリーダーは「メンバーを信じて任せる」
リーダーはまた、自分で何もかもがんばりすぎずに、メンバーを信じて任せることも大切です。
現場の声5:(コンサルティング会社経営者)「誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰る」といった姿勢で模範を示そうとするリーダーは、だいたい2〜3年で体を壊すことが多く、メンバーからは一歩引いて尊敬される感じになります。これではかえって心理的な壁ができてしまいます。
現場の声6:(同上)メンバーから難しいお客様への対応の相談をされることが多く、最初は「私がやっておくよ」とサポートしていました。しかしあるとき、それがかえってメンバーの自立を阻害していることに気がつきました。
メンバーの手に負えない問題が起きたときに、それを解決するのがリーダーの役目の1つではありますが、それが行き過ぎると逆効果になります。
また、リーダーが自分に自信が持てなくて不安になり、つい自分を大きく見せたくなってしまう――というケースもあります。“部下ができないことを自分ができる”“自分のほうが偉い”というポジションを取りたくなるのでしょう。この種の「抱え込み」をやってしまうと部下は育たず、自分も楽になりません。
「誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰る」というような仕事の仕方も「自分が一番仕事をしている」というアリバイ作りの面があり、根が同じ問題だと思われます。
ここで肝に銘じておきたいのは「リーダーだからといって、何もかも1人でやろうとする必要はない」ということです。メンバーに活躍してもらうのがリーダーの役割なのですから、「自分で作業をしているうちはリーダーではない」ぐらいに思っておく方がいいのかもしれません。
相談できる人を身近に置く
「メンター」とは「相談できる人」のことです。あくまでも「相談役」であって、チームの一員である必要はありません。日本では20年ほど前から人材マネジメントの概念としてこの言葉を耳にするようになりました。これまでは「タバコ部屋や飲み会でのおしゃべり」が、この役割を果たしていましたが、どちらも縮小傾向にある現在では、新入社員向けにメンタリングを制度化している会社も出てきています(参考:メンタリング制度 とは - コトバンク「メンタリング制度」)。
取材した企業からは「直接の指揮系統ラインにない、他のグループの上位役職者がサポートメンバーとしてメンター役を担うような形でもいいのではないか」という声も聞かれました。特に真面目な性格のリーダーは、悩みを自分1人で抱え込んでしまいがちであり、それがメンタルヘルス上の問題を引き起こす原因にもなるため、メンター役の存在は重要になることでしょう。
チーム力を上げる環境を“お金で買う”
最後に「執務環境」についてです。特に「マメなコミュニケーション」と、「衆知を集めた問題解決」に役に立つ環境を、もしお金で買えるものなら買ってしまうべきでしょう。
現場の声7:(教育評論家 芦屋広太氏)職場ではみんなのデスクのすぐそばに会議卓とホワイトボードを置いて、何かあったときにはすぐ、すぐ打ち合わせができるようにしています。会議室ほどかしこまった場所ではなく、みんながなんとなく聞こえていて、知っている話題が出たら口を挟める場所で打ち合わせができるようにしたかったんです。
現場の声8:(SI会社経営者)当社は社員全員が在宅勤務で働いています。ただし普通の会社と同じように9時〜18時をコアタイムとしており、常時Skypeで互いにいつでも話せる環境にしています。メールやメッセージのようなテキストベースのやりとりも多いのですが、それだけだと、分かり合っているつもりでも行き違いがでてきてしまうので、なるべく音声で話すよう心がけています。
声によるコミュニケーションは、テキストに比べて感情が乗りやすく、くだらないジョークも言いやすい、など、「マメなコミュニケーション」を通じて心理的な距離を縮めるのに向いています。また、うまく言葉にならないようなもやもやした懸念を表せるため、ネガティブな情報をいち早く表に出して共有するためには有利です。
一方、テキストベースのコミュニケーションには「長期保存が可能」「検索性が高い」「非同期コミュニケーション(異なる時間で情報を共有するコミュニケーション)が可能」などの利点があります。それぞれの特性を見極めて、自社の事情に応じて組み合わせるといいでしょう。
連載:時代が求める「少人数チーム」の作りかた
- 第1回:「少人数チーム」でビジネスの壁を突破する
- 第2回:会議もチームも飲み会も――うまくいくのは6人まで
- 第3回:多くの企業が陥る、リーダー不足という“勘違い”
- 第4回:「成果が出ない」「人間関係がうまくいかない」――この問題は少人数チームで解決できる
- 第5回:少人数チームでは、“リーダー”という言葉に惑わされてはいけない
著者紹介:開米瑞浩(かいまい・みずひろ)
IT技術者経験を元に、技術系の複雑な説明書、報告書などを分かりやすく書くスキルを技術者向けに教える研修事業を手がける。「エンジニア向け 図解思考再入門講座」「図解 大人の『説明力』」「ITの専門知識を素人に教える技」など著書多数。
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