なぜセレッソ大阪は、香川真司を世界的プレイヤーに育てられたのか?:ベストチーム・オブ・ザ・イヤー(2/2 ページ)
香川真司、清武弘嗣、乾貴士――。セレッソ大阪から、多くの日本代表選手が輩出されているのはなぜなのか? セレッソ大阪スポーツクラブ代表理事の宮本功氏に、結果を出す人材としくみの作り方を聞いた。
信念を貫くために周囲を巻き込んだ仕組みづくり
――育成部門を立ち上げるといっても、宮本さんも組織の人間の1人です。上司やトップをどうやって説得したのでしょうか。
投資するおカネには費用対効果が求められます。単に「おカネをください」と言ってもダメと言われるのは当たり前です。だから、おカネを生む仕組みづくりとともに提案しました。まずはおカネを集めるために育成支援組織の「ハナサカクラブ」を立ち上げたのです。
「ハナサカクラブ」にはアーティストのファンクラブのような特典はありません。私たちはただ「1口3000円で支援してください」と言うだけです。でもそのかわり、子どもたちの育成のためだけに使うという約束をしています。
――最初はどのくらい集まったのでしょう?
最初は100万円超くらいでした。目標もそこに置いていましたし、とても感謝すべきことです。
しかしそこからさらに、セレッソの年間チケット代に支援金部分を組み込みました。いわば実質3000円の値上げです。しかもJ2に落ちたときに値上げしました。そのかわり、子どもの年間チケット代は半額くらいに下げました。家族で観に来たときに、実質的に費用は変わらないようにして「家族に優しいセレッソ大阪」でありたいと思っていました。また、年間シートを“無金利分割払い”できるようにしたりなど、今考えればちょっと無茶もありますね。
――とはいえ、かなり大きな判断ですね。地域のファンをも巻き込んで「育成のセレッソ」へと大きく舵取りをした印象を受けます。
最初はもちろんクレームもありました。しかし導入した以上は戻れません。現在ではおかげさまで、毎年1600万円くらいの支援が集まるようになりました。その資金で子どもたちを毎年海外に送れるようになったのです。
その後2010年には、育成部門をクラブ本体から分離して一般社団法人化し、公的助成金をもらいながら統合型地域スポーツクラブとして運営するようにしたのです。
――そういった考えはどこから思いついたのですか?
自分たちの周りの環境を組み合わせていっただけなのですが、マンチェスター・ユナイテッドなどがNPO団体をつくって、そういった活動をやっていたわけです。そこから着想したことは間違いありません。
――そこまでして育成組織を立ち上げるに至り、ファンをも巻き込んで大きな改革をされた理由は何でしょうか。
クラブとしての危機感ですね。同じ大阪のチームでも、ガンバ大阪さんは成長していてトップを走っている。でもセレッソはJ2で昇格争いをしている。「ここで大きく変わらないとクラブとしての維持ができない」という危機感でした。
成長する人としない人の差とは、落ちこぼれた選手への対応方法
――人を育成する中で、成長する人、成長しない人の差は何だと思いますか?
成長するという意味では、みんな選手としては成長します。ただ、「プロになれる、なれない」はある。そこは競争なので差が出てくる。競争は、相手を上回らなければならない。そのために持っている身体能力をどう伸ばすか、どれだけなりたいと思っている自分に近付けるのか、本気でプロになりたいとどこまで思っているか――、その思いが差となって出てきます。
しかもサッカーは厳しい世界であり、フィジカルとメンタルの両方が問われます。とくにメンタルでは自分に勝つことに加え、相手にも勝たなければならない。さらに言えば、サッカーで自分のやりたいことを表現できる積極性や自立性まで求められてくるのです。
――途中で落ちこぼれる選手の育成、モチベーションの保ち方はどう考えていますか?
そこはコーチたちの力量が重要になってきます。落ちこぼれた選手を練習や試合でどんな扱いをして、言葉をかけるのか。そのポイントは選手に「喜び」を与えることです。
レギュラーになれる子、なれない子であろうが、きちんとそれぞれが成長したことを認めてあげることが一番大事なのです。そうしなければ、どんな選手も何をすればいいのか分からなくなってしまう。だからこそコーチは、1人ひとりを認証するように心がけています。
反対にコーチがチームが勝つことだけを考えていると、個を捨てることになります。だから、私はチームが全敗しようと、選手全員がプロになってくれることを育成の基本においています。
ただその一方で、1人ひとりが相手に勝つ、試合に勝つという強い気持ちを持たなければ、プロにはなれません。だから、当然勝たないとダメなのです。何よりも選手が強いハートを持てるように育てることが大事です。サッカー選手を育てるには人間性は避けて通れないのです。
また、親も監督も一緒になって叱るだけでは、逆に子どもは自己防衛に走ってしまいます。何を言っても反応しなくなってしまい、監督やコーチが何を言っても聞かなくなる。ですから、子どもだけでなく、親と一緒に育てる姿勢も重要になるのです。
(つづく)
(執筆:國貞文隆/撮影:橋本直己/聞き手・編集:椋田亜砂美)
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