この数年で、最も躍進した端末メーカーの1つがシャープである。同社はJ-フォン(現ボーダフォン)向けのカメラ付き携帯電話の成功で成長の足がかりを作り、トップシェアを獲得。その後、ドコモ向け端末メーカーとしても再参入し、FOMAの90xシリーズをフラッグシップに急速に地歩を拡大した。NECとパナソニック モバイルコミュニケーションズという長年の端末メーカー2強体制を崩し、新たな「3強時代」を構築した。昨年度通期では初めて端末シェアトップになっている。
シャープはなぜ、強くなったのか。そして端末メーカーにとっての番号ポータビリティ(MNP)は、どのような意味を持つのか。シャープの通信システム事業本部長、長谷川祥典氏に聞いた。
シャープは昨年度、端末メーカーのシェアトップを獲得した(4月24日の記事参照)が、ライバルのNECとパナソニック モバイルは、長年トップ争いを繰り広げる強力なメーカーである。シャープはなぜ、トップシェアを取ることができたのだろうか。
長谷川氏は「シャープとして力を入れてきたのが、『液晶の高精細化』と『カメラの高画素化』。この2つは他社に負けないようにしてきました。さらに(ほかの部分でも)キャリアのサービスを先頭努力で実現していくという方針をとっています」と話す。
この傾向は、シャープ製携帯電話を手にすればすぐにわかる。いわゆる“全部入り”は、同社のハイエンドモデルに共通した特徴だ。またエントリーモデルでも、ハイエンドモデルと統一のユーザーインタフェースを持ち、同クラスの他社製品を上回る性能・機能が搭載されている。「高性能=シャープ」というブランドイメージの確立に成功しているといえるだろう。
一方、端末販売数の上で、シャープ躍進の大きなきっかけになったのが、ドコモのFOMA市場への参入だ。シャープは1990年代、PHSのパルディオやPDC端末ムーバをドコモ向けに供給していたが、一時期、ドコモ向けの供給が中断。J-フォン=ボーダフォン向けが中心だった時期がある。しかし、再びドコモ向け端末市場に参入。90xシリーズの成功を追い風に、“ドコモの主力端末メーカー”の地歩を確立した。
「(ドコモ市場への)参入でいうと、カメラ付き携帯電話のヒットがきっかけになりました。ドコモが求めるものと、我々の提供できる技術がうまく合致した結果だと考えています。シャープは家電メーカーですから、『家電寄り』な端末作りをしています。この辺りがドコモユーザーの皆様に支持していただけたのではないでしょうか」(長谷川氏)
周知のとおり、旧来からのドコモ向け端末メーカーは、NECやパナソニック モバイルを筆頭に通信機器メーカーの出自が多い。家電メーカーであるシャープは、その中で個性が打ち出しやすく、高性能のブランドイメージとともに躍進の要因になったようだ。
“液晶のシャープ”は同社の強い個性であり、携帯電話でもついに「アクオス」のブランド名が使われた。ユーザーも大画面・高解像度のディスプレイを携帯電話に求める傾向がある。しかし長谷川氏は、「液晶とカメラ(が求められる時代)はそろそろ頭打ち」と指摘する。「液晶は少し時間がかかるかもしれませんが、VGAが主流の時代まではいくでしょう。カメラの高画素化は、(一般向けでは)300万画素あたりで頭打ちになり、その後は別の分野にニーズが移っていく」
液晶とカメラのニーズが頭打ちになった後に、ユーザーを惹きつけるのはどのような分野になるのだろうか。また、新たな時代にシャープはどのようなブランドイメージを築くのか。「新たなニーズを牽引するのはワンセグだと考えています。液晶とカメラがいいというのはシャープ製の携帯電話にとって当然であり、次のシャープのイメージとしては『テレビがきれい』を打ち出していきたい」と長谷川氏はいう。
現在、ワンセグに対するシャープの並々ならぬ決意が感じられるのが、ボーダフォン向けの「905SH」だ。同機は“アクオス”の名を持ち、サイクロイド液晶という独特の機構を採用した。
「これは社内的な話ですが、(シャープには)家電メーカーとして『テレビでは負けられない』というプライドがあります。携帯電話は小さなものではありますけれど、このワンセグで他社に負けたら、(シャープ全体の)アクオスのブランドに傷がつく。絶対に負けられませんよ(笑)」(長谷川氏)
むろん、大型のデジタルハイビジョンテレビと、携帯電話のワンセグには違いがある。だが、「シャープには画質に対する強いこだわり、画像処理の技術やノウハウの部分では(テレビメーカーの)強みがある」。サイクロイド液晶やアクオスのブランド名などは、今後シャープ製ハイエンドモデルの個性として広く打ち出していくという。
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