携帯電話市場の成熟と700iシリーズの功罪:神尾寿の時事日想
市場が成熟すると、新機能が重視されなくなるのは当然の流れ。「新機能は要らない」というユーザーのニーズに、FOMA 700iシリーズは応えられるかどうかを考える。
インフォプラントが運営するインターネットリサーチサイト「C-NEWS」が、携帯電話に関するアンケート調査の結果を発表した(2月3日の記事参照)。これによると、携帯電話端末を買い替える際に重視する要素(複数回答方式)のトップ3は、「購入価格」(7割)、「本体の形状・デザイン」(6割弱)、「電話会社」(5割弱)だという。
この調査結果は、携帯電話の市場が成熟し、コモディティ化に向かって流れ出していることを示している。よくも悪くも、「機能の時代」は終わろうとしている。IT業界における成長期が、優れた技術を普遍化していくプロセスである以上、成熟期に入ると機能が絶対的な差別化要因でならなくなってしまうのは自然な流れだ。PC市場やデジタル家電など、他のデジタル市場の趨勢を例にするなら、今後の“順当なシナリオ”は「価格競争が激化する一方で、一般ユーザーの興味が惹起できない不毛な消耗戦」という悲観論になる。
希望もある。今回の調査では、「デザイン」や「電話会社(ブランド)」も重視されていた。デザインとブランドにしっかりとした付加価値を与えられれば、価格競争の努力は避けられなくとも、一般ユーザーの興味が購入価格だけに集中する不毛さからは免れられる。自動車分野のように、市場と文化にふくよかさを与えられる可能性はまだ残されている。
成熟期のエントリーモデル。この視点でドコモの700iシリーズを見ると、そこに存在する功罪に気づく。
700iシリーズの「功」はコストパフォーマンスの高さだ。普及価格帯のモデルという位置づけながら、ネットワークサービスは901iシリーズ相当、全機種TV電話対応で、音楽再生機能やメガピクセルカメラ、メモリーカードスロットを搭載するなど、機能面ではかなり充実している。700iは、値崩れして売れている900iとあわせて、エントリーユーザーのFOMAへの誘導、スペック面での底上げに大きく貢献するだろう。
一方、700iシリーズの「罪」は、デザインやコンセプトの部分で901iシリーズとの明確な差別化ができていない点だ。確かにサイズはコンパクトになったが、デザインの方向性とターゲットユーザー、そして製品のコンセプトが、同じメーカーの901iシリーズと似通っている。ハイエンドモデルとエントリーモデルの違いが価格と機能のみでは、多様性がなかなか生まれない。結果として、一般ユーザーの携帯電話に対する興味を薄れさせてしまう可能性すらある。
ドコモはデザインやコンセプトの「広がり」の部分をニッチ層と見ており、それを2Gのコンセプトモデルで受け止めようとしている(1月25日の記事参照)。しかし、デザインとコンセプトの多様性を求めるのは、実は巨大な一般ユーザー層ではないだろうか。
携帯電話市場の健全な成熟において、業界最大手であるドコモのエントリーモデルは重要な存在だ。今後の70xシリーズが多様なデザインとコンセプトを持つモデルに成長することに期待したい。
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