携帯電話のデザインで重要な“インハウス”の質 :神尾寿の時事日想
機能競争の段階を過ぎ、デザインの質が問われるようになっている携帯電話。デザインの向上のためには、キャリアの“インハウスデザイン部門”が重要になりそうだ。
昨日、所用があって無印良品 有楽町店に行ったところ、階下にあるソフマップの携帯電話売り場にちょっとした人だかりができていた。帰り際に覗きこむと、数組のカップルがau design projectの新作「PENCK」のモックアップを手にして、そのデザインについて語り合っていた。クルマと同じく、携帯電話も機能進化の末に「デザイン」が重要な評価項目になる時代になったようだ。
au design project(2004年10月21日の記事参照)を率いるKDDI au商品企画本部プロダクト統括部プロダクトマネジメントグループの小牟田啓博プロダクトデザインディレクターは、「デザインケータイ」という言葉のように、携帯電話のデザインを特別視し、あたかもトレンドのようにみる風潮には違和感を覚えるという。
「デザインへの取り組みは文化活動そのものです。au design projectのミッションは何かというと、auブランド全体のデザインをよくすること。そのためには(デザインが)『悪いものがあってはいけない』という考えでやっています」(小牟田氏)
PENCKやtalbyなどau design projectの手がけたモデルはもちろん、通常モデルのデザインをチェックし、高いクオリティを維持するのも小牟田氏の重要な仕事だ。社内に専門職のデザインディレクターを置いて、すべての端末デザインをコントロールする。全体的かつ継続的にデザインの向上をはかる「体制」が、auのデザイン戦略における肝といえる。
一方、NTTドコモは2月9日、おちまさと氏プロデュースによる“先進ファッション的ケータイ”と銘打った若者向けブランド「ダットエムオー」をスタート(2月9日の記事参照)。「携帯をファッションとして捉えたい。ならばブランドが必要ではないか」(おちまさと氏)という提起を行った。ダットエムオーでは様々なデザイナーやアーティスト、タレントによる、P901i用のカスタムジャケットを開発する。
またドコモは、ダットエムオーのほかに、preminiのように2Gのコンセプトモデルを積極的に投入するなど、「デザイン」への注力ではauに負けていない。だが、それぞれが独立したプロジェクトであり、“マス向けモデル”である90x/70xシリーズも含めて、ドコモの端末ラインナップ全体でデザインを統括するデザインディレクターやデザイン部門は存在しない。おちまさと氏や端末メーカーのデザイナーなど「外頼み」なのが現状だ。
しかし、匿名を条件にする複数のドコモ関係者によると、「ドコモでも(専門職の)デザインディレクターの採用、デザイン部門の設置に向けた動きがある」という。ダットエムオーなど短期的な取り組みでブランドイメージの向上を図りながら、中長期的な布石も打っているようだ。
携帯電話より先に成熟産業になり、ライフスタイルツール化した自動車では、デザインが重要なのは当然のことになっている。自動車メーカーは多額の投資をして、優秀なデザイナーとデザインディレクターの獲得・育成を行っている。クルマの場合、社外の著名デザインハウスを起用したとしても、インハウスのデザインディレクターが「コミュニケーション役」になり、事実上のコラボレーション体制になる。
携帯電話の場合では、キャリアはメーカーではないので、インハウスデザイナーが直接デザインする、というケースは考えにくい。しかし、デザインの質向上に社内のデザインディレクターが必要であることは、auやドコモの動向を見ても明らかだ。近い将来、キャリアの“インハウスデザイン部門の質”が、商品力を大きく左右する可能性があるだろう。
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