何のための携帯か――親と子どもの埋めがたいギャップ:モバイル社会フォーラム2005(2/3 ページ)
携帯で子どもと連絡が取れると考える親、携帯があるから自由になれる、友達と仲良くなれると考える子ども。親と子どもの間には、大きな意識のズレがあるようだ。
親と子どもとで「携帯を持つ理由」がずれている
複数の講演者が指摘していたのが、ケータイを持つ理由・目的が、親と子どもとでかなりずれているという事実だ。
遊橋裕泰氏によれば、保護者の認識は「緊急連絡」「家族のコミュニケーション」「子どもの居場所確認」が中心で、それは子どもが小学生でも中学生でも高校生でも変わらない。一方子どもは、小学生の頃こそ親と連絡を取るために使っているが、中学・高校生になると主に、“友達とつながるためのツール”として、携帯電話をとらえている。
群馬大学大学院社会情報学研究科の下田博次教授も「子どもに携帯を持たせることで、親はいつでも子どもがどこにいるか確認できると考えるが、実は子どもの側は『携帯のおかげで親の束縛から自由になれる』と感じている」と指摘する。また、ほとんどの親は「うちの子に限って」と思っており、援助交際で保護された子どもの親は「自分が買い与えた携帯電話でこんなこと(出会い系サイトなどで見知らぬ人と知り合うこと)ができるなんて知らなかった」と言うケースが多い、とコメントした。
親にとって携帯・PHSは「子どもと連絡を取るための動く公衆電話」、しかし子どもにとっては「外の世界とつながるためのもの」。“携帯はインターネットにアクセスできるツールだ”という認識が、親には不足している――教育の現場にいる教員たちはそこに不満を持っているようだ。
「ケータイ=出会い系、危険」?
フォーラムを見ていて、記者が一番気になったのが「携帯=悪、危険、出会い系」という前提のもとで話を進めている講演者が多かったことだ。
「学校では携帯の所持を禁止しているのに、親が子どもに携帯を持たせたがる」と嘆くシーンを何度か見かけた。また、フォーラムの最後に行われたシンポジウムでは、「児童の携帯電話所持を法律などで規制できないか」と真剣に議論するシーンもあった。
確かに、学校のPCでインターネットにアクセスするのとは違い、ケータイによるインターネットは、よりダイレクトに個人が社会とつながりやすい。子どもが出会い系サイトなどにアクセスすれば、悪意を持った人間に出会う可能性は高い。また、個人に結びついており、決済に直結していることから、金銭トラブルに巻き込まれることもあるだろう。携帯にはそういう“負の側面”が確かにある。
しかしほとんどの人は、「便利だから」「友達とすぐに連絡が付くから」などのメリットを感じているからこそ、利用料金を払ってまで携帯を持っているはずだ。それを「携帯を持つと子どもは出会い系サイトに必ずアクセスする、危険だ」と言わんばかりのトーンには、少なからず違和感を感じた。
引きこもりの子どもが携帯で救われることもある
そういう意味で、聞いていて記者がもっとも共感できたのが、精神科医の香山リカ氏のスピーチだった。子どもが携帯を持つのは“連絡が取れて便利”だからではなく、「友達との関係をよくできる」「使っているとさびしさがまぎれる」「携帯がないと、友達の輪に入れない」といった“心の動機”が多いことを指摘。子どもにとって、携帯は「便利で役に立つツール」から「心のツール」になってきている、とする。
「インターネットのせいで引きこもりが生まれた」「テレビゲームが子どもを悪くした」など、インターネットや携帯といった、新しいテクノロジーが心の病を生んだかのように言われることは多い。しかし実際には、引きこもりの子どもが、インターネットや携帯を最後の手段として、それに頼って外の世界とかろうじてつながっていることも少なくない」と香山氏は述べ、「危ないから」と取り上げるだけではダメだ、と話を締めくくった。
道具をただ「危険だから」と取り上げるよりも、つきあいかたを考え、必要に応じて教えていくべきだ、と考える方が建設的だ。実際、これだけ普及している携帯を、今さら子どもから取り上げることなど不可能に近い。
では、どのようにケータイとのつきあい方を教えていけばいいのだろうか。
事例から学ぶ教材「みんなのケータイ」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.