「それより“HDD搭載音楽携帯”が欲しい」という声に、誰が応えるか?(前編) :神尾寿の時事日想
HDDを搭載した音楽携帯のニーズが高まりつつある。小型HDDを使えば技術的には十分可能なHDD携帯だが、実際に販売されるためにはクリアしなくてはならない障壁があるのも事実だ。
ついにモトローラから“iTunes携帯”こと「ROKR」が発表された(9月8日の記事参照)。iPod nanoと同時発表だったために少し影が薄くなってしまったが、これは「アップルが自社製品以外のハードウェアにiTunesを解放した」という点で画期的であり、その最初のデバイスとして携帯電話を選んだということは、ここがデジタル音楽の裾野を広げる上で重要だからだ。今後、アップルがどこまで「音楽ケータイ」の市場に踏み込むのか。また、日本市場にどのような形でコミットするのかは注目だろう。しかし、今日のコラムの本題は別にある。
ROKR発表後、リニューアルした+D Mobileで「+D QUICK POLL」として読者の反応を集めている(+D Voice参照)。そこで注目なのが、ROKRやウォークマン携帯のニーズよりも、「それよりHDD搭載音楽携帯が欲しい」という声が多いことだ。
周知の通り、HDD内蔵の携帯電話は、ノキアやサムソンのハイエンドモデルとして海外には存在しており、日本の携帯電話メーカーも技術的には作ることができる。音楽に限らず、携帯電話が扱うメディアコンテンツが大容量化する中で、ハイエンドユーザーの期待が大きいのも確かだ。今回の+D QUICK POLLを見るかぎり、日本市場でも一定のニーズはありそうだ。
既存キャリアの販売モデルが壁
しかし、日本市場にHDD内蔵携帯電話が登場するかというと、その見通しはあまり明るくない。少なくとも、既存キャリアは消極的だ。
最大の理由は、既存キャリアの端末販売モデルにある。匿名を希望するキャリア幹部は、「HDD内蔵携帯電話にユーザーニーズがあったとしても、現行の(販売)モデルの中では投入が難しい」と話す。
「HDD内蔵携帯電話は端末コストが上がるが、それに見合うだけのARPU向上につながるのかという課題がある。しかしそれ以上に大きな課題は、サポートの部分にある」(キャリア幹部)
周知の通り、キャリアブランドで販売される日本の携帯電話は、故障対応などのカスタマーサポートをキャリアが行っている。携帯電話は日常的な衝撃にさらされる事もあり、デバイスの耐衝撃性能に対してキャリアは神経質だ。サポートの負担を増やしてまで、ARPUに直結しないHDDを搭載する必要があるのか。端末コストの増加と並んで、ここが既存キャリアにHDD内蔵携帯電話の採用をためらわせる理由になっている。
もちろん、マーケットの声が大きくなり、他キャリアとの差別化・競争上の理由からHDD内蔵携帯電話が登場するシナリオはゼロではない。だが、「キャリアの本音としては、(HDDより耐衝撃性能の高い)シリコンメモリの大容量化に期待している」(キャリア幹部)という。特にminiSDやメモリースティックDUOなど外部メモリの大容量化・利用促進が進めば、携帯電話内のメモリ容量増大を抑えられる。端末コスト削減の上でも、HDD内蔵よりも、外部大容量メモリーの普及に期待しているようだ。
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