プッシュ・ツー・トーク普及の鍵は「誤解されない」こと :神尾寿の時事日想:
この冬登場するドコモ・auの新モデルで実装されると見られているのがプッシュ・ツー・トーク。トランシーバ機能と訳されることも多いこの機能は、その性質も使い勝手も、従来の音声通話とは異なるものだ。
いよいよ、秋の新端末発表シーズンも本番である。すでにボーダフォンが秋冬モデルの発表を済ませているが、2強のドコモとauはこれからが本番。来年の技術・サービス的トレンドを決めるのが「秋冬モデル」だけに期待も高まる。
さて、今年登場する新サービスで注目されているのが「プッシュ・ツー・トーク」(PTT、用語参照)である。すでに新聞各紙でも報じられているが、ドコモ(8月17日の記事参照)とau(9月26日の記事参照)が秋冬モデルでこの機能を実装する予定だ。
周知の通り、PTTは北米のネクステルが成功させたサービスで、音声を半二重でやりとりするのが特徴。回線交換ではなく、パケット通信を使うので、定額制も含む低価格な音声サービスが提供できる。
音声定額とPTTは違うサービス
ドコモやauのPTTも、オプション料金でPTTコールが使い放題になる可能性が高い。そのため新聞各紙やITmedia誌上でも、ウィルコムやボーダフォンの「音声定額」とPTTを同列に並べて比較する傾向がある。18日に掲載された+D Voice「結果発表:『音声定額のためならキャリアも変える』約40%」(10月18日の記事参照)、音声定額とPTTが同列に扱われて、読者アンケートの結果が紹介されていた。
しかし、これら音声定額とPTTを同列に扱う動きは、筆者は間違っていると思う。
なぜなら、従来の回線交換ベースの通話を定額化する「音声定額」は、従来の電話の延長線上にあるからだ。電話の使い勝手が変わらず、サービスの内容も変わらない。料金のみが定額になる。そのためユーザーは利用スタイルを変える必要はない。
一方、PTTは半二重方式で通話サービスの内容・使い勝手が変わる一方で、同報コールなど新たな機能が加わる。PTTはよく「トランシーバ機能」と表現されるが、筆者は準リアルタイムでやりとりされる「携帯メール(特にSMSに近い)」の音声版だと認識している。リテラシー的には、IM(インスタントメッセンジャー)やSMSの延長線上にある。
音声定額とPTTはまったくの別物だ。確かに「料金が定額」という点は共通するが、それだけでメディアが同列に扱うと、ユーザーに誤った認識が広まってしまう。結果として、「半二重のPTTは電話みたいに使えなくて不便だ」という誤解も受けてしまうだろう。
これはPTTにとって大きなマイナスである。PTTは、その機能特性にあった新たな使い方をしていくべきものなのだ。しかし、電話の延長線にある音声定額と同列に比較されていたら、“半二重で使いにくい電話”という印象をユーザーに持たれてしまう。これはコンシューマー向けはもちろん、PTTの潜在市場と目される法人向けでも大きなマイナスである。
PTTを採用する各キャリアとショップが心がけなければならないのは、PTTと電話サービスの間に一線を引き、PTTのコンセプトと新たな使い方・可能性をしっかりとユーザーに説くことだ。また、メディア側も、PTTの本質と音声定額との違いをわかりやすくユーザーに紹介する必要がある。
新たなサービスが、新たなニーズと市場を生み出すことに期待したい。
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