ワンセグ普及に足りない2つのポイント:神尾寿の時事日想
先日、auのワンセグ端末「W41H」を試用した。アナログ放送とは比較にならないほどきれいな画面で放送を見られることに感心したが、しかし今の状況であれば、筆者はワンセグ放送を見ないと思う。その理由は……。
NTTドコモは2月21日、同社で初となるワンセグ対応端末「P901iTV」を3月3日から全国一斉発売すると発表した(2月21日の記事参照)。ワンセグが視聴可能な端末としては、auが既にW33SAとW41Hを発売中だ。最大手のドコモがP901iTVを投入することで、発表済みのワンセグ端末が出揃うことになる。
筆者も先日、KDDIからW41H(機種一覧ページ参照)を借りて試験放送中のワンセグのテストと、雑誌向けのレポート記事を書いた。テスト期間は3日間程度だったが、山手線内の屋外ならばかなりの確率でクリアな映像を見られた。電車やタクシーでの移動中にも試したが、受信感度さえよければ、アナログ放送とは比較にならないクオリティでテレビが見られる。
しかし、筆者はW41HやP901iTVを買わないだろう。ワンセグ放送に大きく2つの要素が欠けており、今のところ魅力を感じられないからだ。
いったいどこで見られるのか
最も大きな不満は、ワンセグの放送エリア情報の開示が不足していることだ。いったいどこで見られるのかが分からない。ドコモやauの製品情報サイトを見てもワンセグ受信地域のエリア情報がなく、社団法人 地上デジタル放送推進協会(D-Pa)へのリンクが張られているだけである。
では、D-Paのサイトにワンセグ放送の“分かりやすい”エリア情報があるかというと、そうではない。Q&Aコーナーにエリアについての情報があるが、それらは官僚的な説明で終始しており、一般ユーザーが一見してわかるエリアマップは存在しない。「どこで見られるのか」の目安すら把握できない状況であり、ユーザーが求める情報という点で的を射ていないのだ。また、ワンセグの将来のエリア拡大予定や不感地帯への対応についての姿勢も曖昧である。
ユーザーがワンセグ対応端末を買おうかと迷った時、欲しい情報は「自分の行動範囲で、どの程度見られるか」だ。100%の確度でなくても、地図上で受信可能レベルがわかる、見やすいエリアマップが必要だ。しかし、これをワンセグ端末を販売するキャリア、D-Paのどちらも用意していない。
ワンセグ放送のエリア情報公開については、関係者の間に、その精度の議論も含めて様々な課題があるのだとは思う。だが、サービス提供地域をわかりやすく開示するのは、ユーザーに対する最低限の礼儀である。一般ユーザーがワンセグ端末を安心して購入できるように、エリアマップを作成して公開していくべきだ。
利用時間帯とユーザー層に、番組内容が合致しない
もうひとつワンセグ放送に不足している要素が、番組の内容である。誤解を恐れず、放送局の方々に失礼を承知で言えば、番組がつまらないのだ。
そう感じるのは筆者の主観かと思ったのだが、筆者の周辺でW33SA(10月24日の記事参照)やW41Hを購入した知人たちも、口々に「最初は携帯電話でテレビが見られるだけで面白かったけど、番組がつまらない」と言い出した。
なぜ、ワンセグ放送で見るテレビはつまらないのか。その答えは、知人達のプロファイルにあると思っている。彼らに共通するのは、IT企業に勤めるビジネスパーソンであり、ワンセグ放送を通勤や移動時間といった“昼間”に見始めたことだ。
周知のとおり、固定テレビ向けの放送は時間軸に沿って視聴者を想定し、番組編成が行われている。その中で、朝8時30分(特に9時)以降から昼間の時間帯は、自宅にいないビジネスパーソンは視聴者のメーンとして想定されていない。そこで番組内容と、“場所に縛られない”ワンセグ放送の視聴者の間にミスマッチが生まれる。だから、ワンセグで見るテレビ番組はつまらないのだ。
ワンセグ普及を本気で考えるなら、ユーザー視点が必要
今年の4月からワンセグは本放送に入る。しかし、現状のままスタートすれば、それは「ユーザー視点が欠けている」状況になってしまう。W41HやP901iTVなど、メーカーの意気込みが感じられるよい端末がありながら、肝心の放送サービスの使い勝手が悪く、魅力もないという結果になりかねない。
筆者は「固定テレビ」向けの仕組みや番組編成をそのままモバイルに持ち込もうとする今のワンセグに懐疑的であるが、携帯電話業界の活性化とユーザーの新たなニーズを喚起するために、“携帯でテレビ”の世界に普及の道筋を付けてほしいと思っている。そのためにも放送業界と各キャリアのワンセグ関係者には、ユーザー視点での取り組みを期待したい。
まずは本放送が始まる4月までに分かりやすいエリアマップを作り、ワンセグ放送向けに通勤時間帯や日中の番組編成を考え直す。そこから始めてはどうだろうか。
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