優れたサービスは「関西のお客さん」が育てる――スルッとKANSAIに聞く(後編):Interview(5/5 ページ)
関西の私鉄やバスで利用できる「PiTaPa」は、東京でSuicaを日々使っている身からすると羨ましいほどよくできたサービスだ。「便利に使ってもらうことで公共交通利用の促進を目指す」というその便利さはどのように生まれたのだろうか?
関西人のお客さんが良質なサービスを育てた
今回のPiTaPa取材を通じて感心したのが、利用者の不満やニーズをしっかりと汲みとり、高いサービスレベルを実現している点だ。また、松田氏が「関西のお客様は率直に意見を述べる。いい加減なサービスでは許してくれない」と、苦笑しながら話していたのも印象的だった。
「例えば、磁気式プリペイドカードの残額が初乗り運賃以下だと入場できないという時代があったのですが、これはもうお客さんが許してくれなかった。毎日、(残額不足でゲートが閉まった)お客さんが『なんやの!? これは!』と駅員に詰め寄るんです。『降りるときに精算するんやから、ええかげんにしいや!』と毎回、怒られる。でもこれは冷静に考えれば、お客さんの方が正しい。
また、スルッとKANSAI対応のエリアが広がったのも、お客さんのパワーです。磁気式プリペイドカード導入当初は、相互直通運転をしている乗り入れ先の鉄道会社で(プリペイドカードが)使えないことがあったのですね。それなのにお客さんは、使えないのがわかってて、カードを通すんですよ。もちろん対応してないから、ゲートが閉まって駅員が切符を買ってくださいとお願いする。すると、『なんでやねん?』と、こうなる。『なんで(プリペイドカードを)通せるようにせんのや?(使えないのは)分かっとるわい!』と毎日のように怒られるわけです」(松田氏)
エピソードだけ聞くと、“使いにくさ”にストレートな苦情が殺到することは事業者の負担になりそうだが、松田氏はこの環境を「恵まれている」と断言する。
「関西では特別なヒアリング体制を取らなくても、お客様の不満やニーズが現場から上がってくる。現場の声に耳を傾けていれば、いいサービスが作れるんです。利用者の当たり前の感覚が、そのまま伝わってくる。これほど(サービスを)作りやすい環境はない。お客様が率直に意見をぶつけてくれるのは、ありがたいことなんです」(松田氏)
翻って首都圏に目を向ければ、初乗り運賃がないだけで駅のゲートに閉め出され、本来便利なはずSuicaも混雑した券売機に定期的に並んでチャージしなければならない。PASMOのサービスが始まるまでは、私鉄や地下鉄の乗り継ぎ改札では、Suicaとパスネットカードの2枚を用意する必要がある。チャージの面倒を払拭するモバイルSuicaにしても、利用にはJR東日本のクレジットカードが必要だ。
しかし、PiTaPaのエピソードを聞いていると、事業者の都合にあわせて不便さを甘受する首都圏のユーザー感覚の方が、むしろ間違っているように思える。
「関西で作ったサービスが優れているのは、お客さんが育ててくれるからなんです」(松田氏)
PiTaPaが優れている理由は、関西ユーザーの力によるところが大きいと言えそうだ。
オープンスキームで利用者・エリアを拡大
一方、PiTaPaの今後の目標は、提携カードなどを通じてパートナーを増やし、利用者を増やすことだという。
「我々はオープンスキームと呼んでいますが、異業種連携を今後さらに進めていきたい。またPiTaPa決済を通じたパートナーも拡大していきます。PiTaPaのシステムは全国規模で利用できるものですので、関西地区以外への展開も視野に入れています」(松田氏)
首都圏にはすでにJR東日本のSuicaがあり、地下鉄・私鉄・バス各社とSuicaが乗り入れるPASMOのサービス開始も2007年3月に迫っている(2005年12月21日の記事参照)。しかしながら、ポストペイを軸に優れたサービスを構築するPiTaPaには、首都圏の事業者も学ぶべき点が多々あると思う。筆者自身、取材を終えて「東京でもPiTaPaが使いたい」と率直に思ったのは事実だ。
今後のPiTaPaの展開を注目しつつ、PiTaPa方式の広まりに期待したい。
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