auのおサイフケータイからEdyが消えた理由 (2/2 ページ)
これまでおサイフケータイには必ずプリインストールされていた、電子マネー「Edy」。しかし先日発表されたauの秋モデルからはEdyが消え、代わりにQUICPayがインストールされていた。しかしKDDIがQUICPayの普及を目指すなら、むしろEdyは必須ではないだろうか。
おサイフケータイによる決済サービスを使い始めるまでには、越えなくてはいけないハードルが3つある。1つめはアプリを端末にダウンロードすること。次に初期設定をすること。そして3つ目が「おサイフケータイ機能を使ってみよう」と思うこと、使いたくなる動機があることだ。
1つ目のハードルは非常に高いが、アプリがプリセットされていればクリアされる。2つ目のハードルは、初期設定が面倒で、ユーザーが登録しなくてはならない情報が多かったり、アプリの容量が大きすぎたり、操作が難しかったりすると高くなる。しかしこれは、サービスプロバイダの努力次第でかなり低くできるものだ(1月30日の記事参照)。
そして3つ目のハードルは、おサイフケータイを使うことが「楽しい」「便利」「おトク」だということをユーザーにアピールしたり、身の回りにおサイフケータイユーザーが増えることによってクリアできる。ドコモがおサイフケータイのEdyを初期設定したユーザーに対して、100円分のEdyギフトを付けるキャンペーンを行っているのはこの一環といえる。Edyの普及啓蒙に努めるフリーマガジン「EdyNAVI」も、同様の狙いがあると言っていい(8月24日の記事参照)。
3キャリア全てのおサイフケータイにプリインストールされ、1つ目のハードルがクリアされているEdyは、8月末におサイフケータイでの利用者(=Edyアプリの初期設定を済ませた数)が400万を越えたと発表した。これは3キャリア合計の、しかも累積での数字である。一方、JR東日本が運営するモバイルSuicaの会員数は、7月現在10万人だ(7月13日の記事参照)。おサイフケータイのキラーアプリと期待されていたモバイルSuicaでさえ、“アプリがプリインストールされていない”“初期設定が煩雑”“利用できるクレジットカードが限定されている”という条件が重なれば、普及は難しい。
ちなみに、ドコモのおサイフケータイ契約数は、7月末で1480万台。同時期の統計ではないこともあって直接の比較はできないが、モバイルEdy、モバイルSuicaの利用者数と照らし合わせると、“おサイフケータイ機能の利用者”は、おサイフケータイユーザーの中でもまだまだ少ないことが分かるはずだ。おサイフケータイアプリを普及させるために、「プリインストール」の効果が極めて大きいことは、神尾寿氏も指摘している(8月25日の記事参照)。
QUICPayの普及を進めるにはEdyのプリセットも必要なのでは
プリペイド型電子マネーであればハードルは3つだが、クレジットカード決済ではもう一つ「対応カードを作る/持っている」というハードルが加わる。
学生などで、クレジットカードそのものを持っていないおサイフケータイユーザーは多いだろう。またクレジットカードユーザーでも、メインカードが利用したいサービスに対応していなくては、おサイフケータイでクレジットを利用したいと思う動機は小さくなる。おサイフケータイによる決済に対応しているクレジットカードがまだまだ少ない現状では、使いたいカードが使いたいサービスに対応しているケースはごく稀だ。
EdyやSuicaといったプリペイド型電子マネーには「誰にでも使える」という大きなメリットがある。またSuicaはJR東日本のエリア内が中心だが、Edyなら全国で使える。調査結果を見ても、「電子マネーと聞いて、何を思いつくか?」という問いでも1位を取るなど、最も認知度が高い(2005年12月27日の記事参照)。3キャリアがこれまでおサイフケータイにEdyをプリインストールしていた理由は、まさにそこにあり、KDDIも、これまで端末にEdyをプリセットしていた理由について「せっかくおサイフケータイを買っても、何かアプリが入っていないと使いにくい。エントリーとして、利用への導線を作るために、Edyは向いている」(広報部)とEdyの効用を認めている。
本当におサイフケータイを、そしてQUICPayの普及を目指すならば、Edyでまずはおサイフケータイ決済に慣れてもらい、それからQUICPayの利用を勧めるほうが効果的ではないだろうか。「QUICPayだけ」ではなく「QUICPay+Edy」をプリインストールすればいいことである。
最後に、Edyを運営するビットワレットのコメントを引用しよう。「これまではおサイフケータイで使える決済サービスが事実上Edyだけだったこともあり、各キャリアの厚意でEdyをプリインストールしていただいていた。しかし今はおサイフケータイのサービスも増え、“Edyだけ”ではなくなった。これまでがむしろイレギュラーだったということなのだろうと考えている」(ビットワレット広報部)
関連記事
- 特集:おサイフケータイでクレジット
- 神尾寿の時事日想:QUICPayとiD、「プリインストール」の影響力
現在3方式が並立する状況にある、非接触ICクレジット決済。7月末時点の数字で比較すると、DCMX mini / DCMXの利用者約50万人に対して、QUICPay利用者数は約7万人。この差を生んだ原因の1つが“プリインストール”の有無だ。 - KDDI、au秋モデルにQUICPayをプリセット
JCBが推進する携帯向けクレジット決済「QUICPay」が、秋以降発売されるau端末にプリセットされると一部新聞が報道した。KDDIはこれを認めている。 - 電子マネーを一番使いたい場所はスーパー?
電子マネーと聞いて思いつくのは「Edy」、実際に使ったことがあるのは「Suica」が多く、1回に利用する金額は500円前後。アンケート結果からは、電子マネー利用を巡る現状が浮かび上がる。 - 「10年以内にお財布がなくなる」35パーセント
NTTドコモが携帯ユーザーを対象に実施した調査によると、回答者の半数以上が「ケータイクレジットを利用してみたい」と回答。20代、30代男女の利用意向が高い。 - クレジットカードなしでもモバイルSuicaが利用可能に――10月から
JR東はビュー・スイカカードを持っていなくてもモバイルSuicaが利用できる「EASYモバイルSuica会員」サービスを開始する。現金のほか、モバイルバンキングからのチャージが利用できる。 - 神尾寿の時事日想:モバイルSuicaは“狭き門”
1月28日からスタートしたモバイルSuica。筆者も試してみたが、初期設定の難しさに少々驚いた。前から問題視されていた利用制限の厳しさに加え、「初めの一歩」のハードルを低くすることが、普及のためには必須ではないだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.