一体型カードで“スピード感を増す”FeliCaクレジット:神尾寿の時事日想:
プラスチックのクレジットカードにiDの機能を搭載した、一体型カードを発行すると発表した三井住友カード。三井住友カードだけでなく他社もこの流れに追従すれば、FeliCa決済の利用者・インフラは今後数年でかなりの勢いで増えるのではないだろうか。
9月7日、三井住友カードとNTTドコモは、ドコモのおサイフケータイで利用できるクレジット決済方式「iD」を、2007年1月よりクレジット一体型カードに対応させると発表した(9月7日の記事参照)。これはクレジットカードにFeliCaチップを内蔵し、iDの機能を搭載するもの。ユーザーはこの新たな一体型カードをiD対応リーダー/ライターにかざすだけで、簡単にクレジット決済を行うことができる。
今回の施策の狙いは、利用者の裾野を広げて、ユーザー数を一気に増加させることだ。三井住友カードでは2007年1月から新規発行するすべてのクレジットカードにiD機能を搭載する方針である。
「基本的にはプロパーカード、法人カード、提携カードすべてを対象にしていきたい。現在、iD対応をしていない一部の提携カードについても、現在、提携先と(iD内蔵化の)話し合いをさせていただいている」(三井住友カード企画部広報室)
また既報のとおり、既存のカード会員も2007年1月からiD内蔵の一体型カードに変更できる。こちらはユーザーによる申し込みを前提にしており、クレジットカードの更新時に自動的にiD内蔵一体型カードに切り替わるものではない。しかし三井住友カードでは「今後、様々な形で(iD内蔵カードを訴求する)キャンペーンの実施を考えている」(同上)という。
一体型カードはiDの普及を促進
iDはドコモのDCMX/DCMX miniだけで「7月末時点で約50万人」の会員数を持っており、利用者数の多さでは優位性を持っていた。これに加えて三井住友カードが一体型カードの標準採用に踏み切ることで、同社の新規発行カードすべてがiD利用者数として上積みされる。さらに三井住友カードの既存会員数は1406万人(2006年3月時点)であり、これら既存ユーザーの一体型カード切り替え分も期待できる。来年以降、iD利用者が数百万人の単位で増えていくのは確実だ。三井住友カードでは「三井住友カードiDのユーザーを、2008年度中に1000万人にすることを目指す」(広報室)という。
さらにiDが、“おサイフケータイだけ”でなくなることは、ふたつの面でメリットがある。
1つはauやボーダフォンなど、ドコモ以外のキャリアを使っていたり、ドコモでもおサイフケータイ以外の機種を使っているユーザーも、iDの利用者として取り込めることだ。特に「iDはドコモだけ」の状況が改善できることは、iDの加盟店を増やす上で有利に働く。筆者は、早急にauとボーダフォンのおサイフケータイもiDに対応すべきだと強く感じているが(7月24日の記事参照)、今回の一体型カードの登場によってドコモユーザー以外にもiD利用の選択肢が与えられたことは喜ばしいことだと思う。
もう1つが「リテラシーのハードル」が大幅に引き下げられることである。iDは、ドコモのDCMXを筆頭に、簡単に利用開始できるように作り込まれている。しかし、おサイフケータイを所有し、初期設定をして使い始めるには、ユーザー側にサービスの認知と理解が必要だ。おサイフケータイならではのメリットや可能性は大きいが、当面の利用者数を拡大するには、馴染みのあるプラスティックカードを“かざすだけ”という一体型カードの方が有利である。iDの認知度向上、普及と利用促進にとって、一体型カードの登場は追い風になる。これは、DCMXなどおサイフケータイ型決済の利用促進にも繋がるだろう。
一体型カードはFeliCaクレジットのトレンドになる
今回、三井住友カードが一体型カードの標準採用に踏み切ったことで、iDの利用者層は一気に拡大する。この動きを、QUICPayやスマートプラスを採用するイシュア各社が傍観するとは考えにくい。FeliCaクレジット機能をプラスティックカードに内蔵する一体型カードの動きは、今後の業界トレンドになるだろう。これにより、2007年にはFeliCaクレジットのユーザー数が爆発的に増える。
主要なイシュア各社の1年間の新規発行枚数を鑑みれば、2007年だけで500〜600万人が何らかのFeliCaクレジットを手にする事になるだろう。電子マネーの普及や加盟店拡大も拍車がかかっており、FeliCa決済の社会インフラ化のスピードは、さらに速くなりそうだ。
一方でおサイフケータイは、これらカード型で急拡大するFeliCa決済市場を、いかにスムーズに取り込むかが重要になる。FeliCa決済市場は携帯電話ビジネスにとって大きなチャンスだ。おサイフケータイの普及と利用促進、新ビジネスの展開に、よりいっそうの注力が必要だろう。
関連記事
- おサイフケータイ“以外”でもiD――三井住友カード、一体型カードを発行
“おサイフケータイでクレジット”を合い言葉にしてきたiDに、クレジットカード一体型が登場。三井住友カードは、同社のクレジットカードをiDとの一体型に切り替える。ドコモは「方針が変わったわけではない」としている。 - 神尾寿の時事日想:早期に「iDはドコモだけ」の解消を
ドコモと三井住友カードが推進する、おサイフケータイで利用できるクレジット決済サービス「iD」が利用できるのは、現在ドコモのおサイフケータイのみだ。iDの普及を進め、利用率を上げるには、いくつか打つべき手があるのではないだろうか。 - 特集:おサイフケータイでクレジット
- ドコモ、独自のクレジットブランド「iD」を発表
NTTドコモは12月から、新クレジットブランド「iD」の提供を開始すると発表した。店頭のリーダー/ライターで携帯をかざして決済する。 - “おサイフケータイクレジット”iDとは、どんなサービス?
NTTドコモが発表した、おサイフケータイを利用したクレジットサービスが「iD」だ。どのようなサービスになるのか、詳しくまとめた。 - ドコモのクレジット「DCMX」開始――12歳を対象にしたメニューも
ドコモは4月28日から、クレジットサービス「DCMX」(ディーシーエムエックス)を提供する。12歳以上を対象にしたメニューもある。 - ドコモがクレジット業界に参入する理由
通信事業者であるドコモがクレジットカード「DCMX」を発行、クレジット業界に本格的に参入する。通信事業者のドコモが参入する理由、iDとDCMX事業の違いについてまとめた。 - 三井住友カード、iDが利用できる提携カード2種を発表
従来、三井住友カードの発行するクレジットカードでしか利用できなかったサービス「iD」が、紀伊國屋書店などの提携カードでも利用できるようになった。 - 「iD」でキャッシング──am/pm内で
3月27日以降、am/pm全店で「iD」をインストールしたおサイフケータイを使って、クレジットカードのキャッシングが可能になる。 - ドコモのクレジット「DCMX」、知っておきたい7つのポイント
ドコモが始める、おサイフケータイを利用したクレジットサービス「iD」。2種類あるサービスの違い、利用前に知っておきたいことなどをまとめてみた。 - 神尾寿の時事日想・バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.