ニュース 2003年1月17日 08:54 PM 更新

“まじす”って何だ?

5GHz帯、54Mbpsで高効率QoS。そして見通し75メートルも飛ぶ。家電業界がこぞって採用を検討しているという、謎(?)の無線LAN技術、Magisの「Air5」を紹介しよう

 先週、ラスベガスでコンシューマー製品の展示会「International CES 2003」が開催されたことは、本サイトの記事でご存じのことだろう。家電製品向けの展示会だけに、PCの話題には乏しいものの、ホームネットワーク関連では多くの話題が提供されている。その中には、一部にはPC関連で注目したい技術も展示されていた。

 「いや、“まじす”って凄いらしいですよ。みんな“まじす、まじす”って言ってます」

 食事の席で知り合いの記者が、少々興奮気味に話をしてくれた。なんでも大手家電ベンダーは、そろって“まじす”の評価を行い、すぐにでも採用する勢いなのだそうだ。

 「そんなものあったかなぁ……」とホテルに帰って取材のメモを見ていると、自分もその“まじす”を取材しているコトに気付いた。ただ、あまりにもひっそりと、主要な展示スペースとは別の場所に出展していたため、まさかそんなに凄い技術だとは思わなかったのである。ブースで説明してくれた担当者も、ごく普通に「大手も採用してくれそうです」と話していただけで、既存の方式と比較したメリットについては、全く触れなかった。今にして思えば、もう少し突っ込んで聞いておけば良かったのだが、訊き方が悪かったのだろうか?

 さて、“まじす”とは“Magis”のことで、シリコンバレーにあるワイヤレスLANベンダーMagis Networks(http://www.magisnetworks.com/)のことである。MagisはOFDMを採用した無線LAN方式に特化したQoS(Quality of Service、帯域保証サービス)方式を採用した無線LANチップ「Air5」を提供している会社だ。

 Air5の技術は、IEEE 802.11aのほか、主に欧州で採用されているHyperLAN2(=HiSWANa)、Wireless 1394のMAC(Media Access Control)を拡張することで、信頼性の高いQoSを実現する。これらの無線通信方式共通しているのは、変調方式がOFDMであること。取材時のメモによると、データをOFDMで複数の周波数に分割する際、各ストリームの割り当て帯域ごとに割当数を変化させる技術とのことだった。

 たとえば、802.11aの場合、信号を6ビットごと48個に分割して送信するが、帯域の半分をあるストリームに割り当てたい場合、24個分を特定ストリームに対してギャランティするのだ。

 さらにAir5では、帯域落ち込みの原因であるCSMA/CD方式によるデータ衝突検出ではなく、動的なTDMA方式も組み合わされる。TDMA方式は時間を細かく区切り、特定の時間帯はQoSで保証されたデータ送受信に割り当てることを保証する。帯域保証で割り当てられている時間帯は、アクセス衝突によるデータ破棄が発生しないため、送受信効率が上がるのだ。

 Magisによると、Air5はOFDMに特化したアルゴリズムで構成されているため、DSSSを採用した802.11bやBluetoothには適用できない。IEEEの802.11作業部会では、QoSを行うための標準仕様として802.11eの策定を進めているが、802.11eは変調方式に依存しないワイヤレスQoSとする必要があるため、TDMAでのみQoSを実現する。つまりAir5は業界標準である802.11eとの互換性がない。

 そのAir5が注目される理由は2つ。ひとつは性能。もうひとつは「業界標準ではないこと」なのだとか。

家電向けワイヤレス通信にフォーカス

 MagisのAir5技術を用いたデモンストレーションは、CESでサムスンとサンヨーが行っていた。残念ながらサンヨーの展示は見逃してしまったのだが、サムスンは(Magisの技術とはアナウンスしていないが)ワイヤレスHDTVを実現するための技術として、Air5を採用している。


サムスンの展示。ワイヤレスHDTVを実現するためにAir5を採用

 Air5で802.11aを用いた場合、HDTV(24Mbps)を1ストリーム、SDTV(6Mbps)を3ストリーム流して、さらに音声1ストリーム以上を同時にサポートできるというから、ちょっとにわかには信じられないほどのパフォーマンスである。Magis提供の資料によると、Air5では802.11a環境下において42Mbpsの実効転送レートを実現できるそうだ。

 無線LANはデータパケットの通信管理が複雑なため、QoS導入による効果は大きいが、しかし帯域保証をしなければならないストリーム数が増えてくると、802.11eが採用する方法ではだんだん効率が悪くなってくる。802.11eでもHDTV(24Mbps)1ストリームとSDTV(6Mbps)3ストリームを同時にサポートすることは不可能ではないが、プラスアルファで音声を流そうとすると厳しい。また、電波品質の変化に弱く、状況によってストリームが途絶えやすいという欠点もある。

 さらには802.11aの標準MACを用いた場合、通信可能な距離はおよそ20メートルほどだが、Air5の場合は75メートルまで通信距離を延長できるという。5GHz帯であることは変わりないため、障害物からの影響が大きいという事実は変わらないが、ノイズに対する耐性が高いため標準的な802.11aよりも厳しい条件で、より安定した通信を行えるのだ。


Air5の伝送速度と距離の関係

 またサムスンの担当者によると、業界標準の802.11eと互換性がないことが家電業界ではむしろ歓迎されているという。Magisの技術は家電業界で採用される見込みだが、802.11eに準拠していないため相互運用を重視するPC向けでは使われないというのが、その理由である。またMagisの技術は標準のMACを拡張したものであるため、ベースとなる無線通信技術との互換性がある。

 つまり802.11aに対応したPCとも通信が可能だが、802.11a搭載のPCからはAir5の帯域保証されたメディアストリームを受け取れない。どんな形であれ、コンテンツがPCを通過することを嫌う(データの違法な複製が行いやすいため)コンテンツベンダーから、Magisは強く支持されている。

 Air5は日本ベンダーも何社かが採用を検討中。CESでサンヨーがデモンストレーションを行ったと書いたが、他にも有力な家電ベンダーが導入評価を行っているという。たとえば東芝は、ホームサーバ機能も持つデジタルCATV用セットトップボックスのリファレンスデザインを各種ベンダーに提供する計画を持っているが、そのプラットフォームでもMagisを採用する予定だ。

 今後、ホームネットワーク構築を考える上で、QoSは重要な技術となる。本命は802.11eだが、その対抗馬としてMagisの動向にも要注目と言えるだろう。

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[本田雅一, ITmedia]

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