リビング+:特集 2003/05/29 23:46:00 更新

特集:IP電話を徹底解剖する
技術から見る「IP電話で110番」の進捗度

ユーザーの注目を集める“IP電話で110番”問題。国内では、通信・放送機構(TAO)で技術の研究が進んでいる。現在の進捗状況はどのようなものか、TAOの研究内容を調べてみよう

 特集「IP電話を徹底解剖する」、第4回目はユーザーの注目が集まる“110番”の問題を、主に技術上の観点から調べてみたい。

 そもそも、110番や119番などの特番を持つ緊急通報は、一般的な通話より優先される。たとえば、先日の東北地方の地震では、直後に被災地域で電話がつながりにくい状況が発生したが、このような状態でも緊急通報はちゃんと行えるようになっている(記事参照)。

 また、緊急通報は発信者番号取得により、番号から発信場所を特定できる。ほかにも、通報者側が通話を切っても回線を保持する「回線保留機能」や、「再呼び出し機能」によって、確実に緊急通報を処理できるようになっている(加入者電話の機能については、4月15日の記事にまとめてある)。

 このように、緊急通話は一般の通話と異なる機能が要求され、それだからこそ緊急時に機能するのだ。

IP電話では技術上、課題が多い

 しかしIP電話では、こうした機能を実現させるにあたり技術上の課題が多い。まずIP電話では、着信番号として利用するIPアドレスと、位置情報が一致しない。このため、通報を行ったユーザーの位置を特定することが難しい。また、IP電話は音声パケットを細切れで伝送するため、一般の電話網のようにコネクションが明確に存在するわけではない。このため、回線保留を行うことが難しい。

 さらに、インターネット環境においてはその場の回線状況に応じてデータ通信を行い、通信速度の保証や帯域確保などは行われない(第1回:IP電話の音質は“携帯電話並み”か?参照)。このため、前述の地震の時のような通信規制や、その環境下での緊急通報の優先などは難しい。そもそも、ネットワーク構成によっては特定地域の通信規制そのものを行うことすら、難しいだろう。

 とはいうものの、通信技術の潮流は現存のサービスをIPネットワーク上で実現させる方向へと、確実に流れている。こうした中、IETFやITUなどの標準化団体でもワーキング・グループを設置して、活発に議論が行われている。日本国内では、通信や放送技術の基礎研究開発を行っている通信・放送機構(TAO)が奈良IPライフラインリサーチセンターを設置して、平成14年6月から「IPネットワークでのライフライン実現のための研究開発」という研究を行っている。

どうやって位置特定・帯域制御を実現するか?

 それでは、どうやってIP電話でこれらの機能を実現するのか? 奈良IPライフラインリサーチセンターのプロジェクトリーダー、下条真司氏、およびサブリーダーの砂原秀樹氏は、2003年度のTAOの研究発表会で、この点に触れている。「基本的な方式や実験内容の検討は終わり、実装などに必要な詳細化を進めている」(研究発表より抜粋)。

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 IP電話で緊急通信を行うイメージ(下条&砂原氏の研究発表より抜粋)

 まず、緊急通信のルーティング技術としては、メール配送同様、データベースを引いて通信先を決定する方式を採用する。現在の、電話番号をネット上のアドレス(URI)に変換するENUM(記事参照)を応用して、電話番号の代わりに地理的位置情報を用いるかたちを提案している。これにより、通報者の最寄りの機関を自動選択し、通信できるという。

 通報機関は、ユーザーの居場所、および認識時刻を自動検知する。その際、いたずら抑止、なりすまし防止のため、通知情報の正しさを検証する仕組みも求められるという。「ユーザー情報管理サーバと位置情報管理サーバを位置付け、それらのサーバが発行した情報に対して、情報の通知を受けた者が検証できるような設計を行っている」(下条&砂原氏の研究発表より抜粋)。もっとも、詳細には触れられていない。

 帯域制御では、“優先帯域制御ポリシーサーバ”を構築し、SIPプロキシとの間で通信を行う。このポリシーサーバは、既にプロトタイプの設計に着手しているという。

 具体的な手法としては、「WFQ(Weighted Fair Quing)やDiffservのような、IPレベルのルータにおける帯域制御技術をうまく利用して、優先制御・帯域制御を行うことを検討している」(TAO)。通信が優先制御されるかどうかの区別には、発呼時にフラグをつけるなどの方法が考えられるが、「発呼のための、上位プロトコル上でのフラグ付けから、各IPパケットへのフラグ付けまで、各レイヤーで色々と考えられる。それらを考慮して検討しなければならない」という。

 ちなみに、仮に通信速度を十分に確保できない状況でも、音声がだめなら文字による通信や、それも難しければ“緊急通報があった”ということだけでも伝えられるようにする、なども考えられるという。

 もちろん、インターネット環境で全ISPの接続が優先帯域制御を、同時にサポートするわけにはいかない。このため、緊急通信のトラフィックは特定のIX(インターネット・エクスチェンジ)を経由する必要があり、これを実現するためにMPLS(用語参照)を利用したルーティングの方式を検討開始したという。

標準化が不可欠

 こうした技術課題を解決するには、IETFなどの国際的な標準化団体との協調が不可欠とTAOは訴える。

 「特に緊急・重要通信は、各国の事情の違いなど従来にない大きな課題を抱えている」。

 IP電話はインターネットを利用するものであるため、今まで以上に国際標準化の作業が欠かすことのできないものになっていく。したがって、これは日本国内の問題だけでなく、全世界的な問題といえる。最終的には国によって異なる「電話文化」を、どのようにすり合わせるのかも、大きなキーポイントとなるだろう。


 さて、5日間連続で掲載する特集も、明日で最終回。最後は、IP電話が秘めた大きな可能性の1つである、「モバイルIP電話」を調べてみたい。サービス実現には、どのような課題を克服する必要があるのだろうか?

関連記事
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関連リンク
▼通信・放送機構(TAO)

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