リビング+:特集 2003/06/06 23:59:00 更新

特集:CATV再発見
ケーブルインターネットの高速化、異常なし?

高速なDOCSIS仕様が広がりつつあるケーブルインターネット。標準仕様の採用は、サービスのコストパフォーマンスを向上させ、通信/放送の両面を持つCATVの付加価値を高めた。しかし、背後には“放送”を手に入れたFTTHの足音も?

 頻繁にサービスの刷新が行われるADSLに比べると、話題性に欠けるCATV。だが、幹線の高度化(HFC化)とともにDOCSIS仕様の高速インターネットサービスが広がりつつある。標準仕様の採用は、同時にコストパフォーマンスを高め、価格競争力のアップにも繋がっているようだ。

 DOCSISは、“Data Over Cable Service Interface Specifications”の略。米国のCATV業界団体MCNS(Multimedia Cable Network System Partners)が策定するケーブルモデムの標準仕様だ。

 DOCSISモデムは1997年に登場したが、当時は日本のCATV事業者が採用する例は少なかった。理由は、国内の住宅事情によるところが大きい。イッツ・コミュニケーションズでは、「集合住宅がサービスエリア全体の7割を占めていたため、流合ノイズに強いTERAYON独自仕様のほうが適していた」と話している。

 しかし、DOCSISのバージョンアップとともに耐ノイズ性が向上し、一方でADSLの登場が“値下げ圧力”を生む。「モデムの低価格化も避けては通れなくなった」(同社)。

 世界標準仕様のDOCSISモデムは、量産効果による低価格が最大のメリットだ。また従来のモデムが上限8Mbpsだったのに対し、下り最大30Mbpsの伝送能力と、サービスごとのQoSを可能にするDOCSIS1.1モデムは時流に合った仕様だったといえる。

 近鉄ケーブルテレビ、イッツコムなどを皮切りに、近年になってDOCSISモデムの採用が急速に進んだ。カタログ上で「最大20Mbps」あるいは「最大30Mbps」と表記されたサービスがこれに当たる。

DOCSIS 2.0は上りの雑音に強い

 一方、一部でより新しい仕様の「DOCSIS2.0」を採用するサービスも登場し始めた。DOCSIS 2.0は、A-TDMA(advanced frequency agile time division multiple access)とS-CDMA(synchronous code division multiple access)を新たに採用し、上り方向の転送速度を従来の約6倍にまで引き上げたのが特長だ。モデムの伝送速度は、上り最大30Mbps(S-CDMA、変調方式は128-QAM)、下り最大38Mbps(256-QAM時)。ただし、実際のサービスでは上り帯域をここまで利用する例はまだない。

 ジュピターテレコム(J-COM)は、練馬区と杉並区の一部(約6万ホームパス)を対象として、5月からDOCSIS2.0仕様のトライアルを実施している。スピードは下り最大30Mbps/上り最大2Mbps。

 同社によると、5月6日に初めての回線が開通し、順次取付工事を進めているという。6月の半ばまでには500世帯すべてのモデムを設置できる見込みだ。「DOCSIS 1.1でも30Mbpsは出るが、やはり新しく、将来性のある規格を採用した。2.0は、上りの雑音に強い」。

 注目のスピードは「トライアル開始当初はRBB Todayのスピードテストでも22Mbpsを記録したが、ユーザーが増えた今は12M〜20Mbps程度。上りはフルスピードに近い1.5Mbps以上の数字が出ている」という。

 同社は3カ月間で技術的な検証と運用試験を進める予定だ。商用化に関しては、トライアルの結果を見て判断するとしている。「トライアルを終えて“いける”ということになれば、順次サービスエリアを拡大するだろう」(同社)。

上下100MbpsのCATV?

 もともとTV放送という“リッチコンテンツ”を伝送するために作られた同軸ケーブルは、実はかなりの伝送能力がある。CATVは1チャンネルを6MHz幅としているが、現在主流になっているHFCシステム(770MHzまで)なら約100チャンネルを伝送可能。極端な例えだが、すべてをIP伝送に使えばFTTH顔負けのスピードとなる。

 もちろん、現状のサービスでは考えられないが、似たような発想はどこにでもあるようだ。例えば「米国のある企業では、6本のチャンネルを束ね、180Mbpsを超える技術の研究が進められている」(日本ケーブルラボ)という。

 また、770MHzより高い周波数帯を利用するのも一つの手。まだ手を付けていない場所であれば、TV放送を前提とした6MHzのチャンネル幅に制限されることもなく、伝送速度を上げることができる。もちろん高い周波数帯は減衰しやすいというネックもあるが、ADSLと異なり、CATVは伝送路上のアンプで信号を増幅できる。

 この技術は、米Narad Networksが開発したもので、日本でも2003年2月にフィールド実験を行っている。パートナーは、シンクレイヤ(同社の国内代理店)と、名古屋市でCATV事業を展開しているスターキャット・ケーブルネットワークだ。

 実験では、スターキャットの局舎同士をつなぎ、900M〜1GHzの周波数帯に62MHz幅のチャンネルを2つ設定した。変調は64QAMで行い、理論上の伝送速度は上り下りとも100Mbps。その結果、「98Mbps前後の双方向通信が可能だった」(スターキャット)。

課題は光ファイバーの低価格化

 Naradのシステムが普及すれば、同軸ケーブル1本で「上下100Mbpsの高速インターネットサービス」と「多チャンネル放送サービス」を提供できることになる。これはNTT地域会社などが目指している「サービス多重」と機能面では同等。しかし、スターキャットによると、現時点では一般家庭向けサービスにこの技術を適用することは難しいという。

 原因は技術面よりもコスト面だ。登場したばかりのシステムが高価になるのは当然だが、一方で「日本ではFTTHの普及により、光ファイバーの低価格化が著しい」(同社)からだ。

 つまり、“CATV網の改変”と“光ファイバー網の新規敷設”を天秤にかけたとき、左右のバランスは微妙で、しかも光ファイバーの低価格化は現在進行形。Naradは、既存のCATV網にアドオンできるタイプの機器も開発しているが、事業者側としては“しばらくは様子見”というのが本音かもしれない。スターキャットでは「集合住宅向けのアクセス回線など、(Naradの技術を使った)いくつかの案はあるものの、ビジネスモデルはできていない」と話している。

 光ファイバーの様子を窺っているのは、スターキャットだけではない。将来のFTTH化を、CATVの「マイグレーションパス」と話すのはJ-COMだ。

 同社は2002年5月から7月にかけ、系列局のJ-COM関東・西東京局でFTTH実験を実施した。幹線系光ファイバーを延長する形で、顧客宅まで引き込み、外部インターネットへの接続では平均87Mbpsを記録したという。

 ただし実用化に関しては慎重な構えだ。「FTTH化は、既にケーブルを持っているわれわれのアドバンテージ。マイグレーションパスとして検討はしている。ただし、100Mbpsを活かすようなコンテンツはまだ存在しない」(同社)。FTTHを見据えつつも、現状では下り30MbpsのDOCSISが適当という判断だろう。

 もっとも、CATV事業者としての本音はこちらかもしれない。「重いコンテンツが見たいのなら、TVを見てほしい」。的を射た意見だ。

放送・通信の両面でFTTHと競合?

 いずれにしても、DOCSISの採用が契機となり、CATVのインターネット接続サービスはコストパフォーマンスを向上させることに成功した。

 たとえばイッツコムの場合、今年に入ってから最大30Mbpsの「かっとびワイド」を3900円に値下げ。「ようやく値頃感が出てきた」(同社)という。放送サービスも提供できるCATVを通信専用インフラと単純に比較することはできないが、価格帯と伝送速度をみれば、少なくとも現在のADSLやFTTHとは十分に競争できる状況になった。

 しかし、あまりゆっくりはしていられないかもしれない。全国的にみれば、新規加入者の獲得ペースではFTTHに追いつかれ、また一方で、今後は放送事業を含めた競争の時代を迎えることが予想されている。

 きっかけは、2001年9月に「有線テレビジョン放送法関係審査基準」からNTTのFTTHを使った有線テレビ施設設置を規制する項目が削除されたこと。放送と通信の融合が、CATVにブロードバンドビジネスを与えた一方で、NTTなど通信事業者にも放送分野に参入するチャンスをもたらした。

 新しい流通経路を求めるコンテンツホルダーもすでに動き出している。スカイパーフェクTVは今秋にもFTTHを利用した放送サービスを開始する計画だ。

 全国規模の通信事業者がFTTHを使った放送事業に参入すれば、CATVがこれまで保ってきた「TV」という優位性が崩れてしまう。今のところFTTH放送の詳細は不明だが、これがCATVに対し、光ファイバーの利用を含めたドラスティックな変革を迫る可能性は否定できないだろう。ADSLの普及がHFC化とDOCSISモデムの採用を促したように。

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[芹澤隆徳,ITmedia]



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