AppleのiCloudデータ、中国移行に懸念の声当局の悪用懸念(1/3 ページ)

» 2018年03月06日 16時28分 公開
[ロイター]
photo 2月24日、アップルは同社にとって初めて、中国人ユーザーのiCloudアカウントの暗号化キーを中国国内で保管することになる。写真は同社ロゴ。2017年7月撮影(2018年 ロイター/Aly Song)

[サンフランシスコ/北京 24日 ロイター] - アップルは2月末、中国人ユーザーの「iCloud(アイクラウド)」アカウント運用を中国データセンターに移行。中国で制定された法律遵守のためだが、これにより中国当局は、従来よりはるかに容易に、クラウド上に保存されたテキストメッセージ、電子メールなどのデータにアクセスできるようになる。

なぜなら、iCloudアカウントのロック解除に必要な暗号化キーの取扱いが変更されるからだ。これまで暗号化キーは常に米国で保管されていた。つまりどの国の政府や法執行機関であっても、中国人ユーザーのiCloudアカウントにアクセスするためには米司法システムを経由する必要があった。

だがアップルは今回、同社にとって初めて、中国人ユーザーのiCloudアカウントの暗号化キーを中国国内で保管することになる。司法専門家によれば、中国当局がiCloudユーザーに関する情報を必要とする場合、もはや米裁判所に頼むことなく、自国の司法システムを通じて、中国人ユーザーのiCloudデータを引き渡すようアップルに請求できるようになる。

人権活動家は、中国当局が反体制派の取り締まりのためにこの権限を悪用することを危惧しており、10年以上前、ヤフーが引き渡したユーザーデータがきっかけとなって、民主活動家2人の逮捕・投獄につながった事例を引き合いに出している。

人権活動家でアップル株主でもあるJing Zhao氏は、アップルがiCloudデータを引き渡せば、ヤフーの場合よりも深刻な人権問題が生じるのではないかと懸念していると言う。

アップルは声明で、最近中国で導入された法律により、同国民に提供されるクラウドサービスは中国企業によって運営されること、またそのデータを同国内で保管することが義務付けられており、この規定を遵守しなければならなかった、と述べている。

アップルによれば、別の国だからといって同社の価値観が変わるわけではないが、各国法律には従わなければならない、という。

「iCloudをこれらの法律の対象外とするよう主張したものの、結局は成功しなかった」とアップルは言う。アップルは、iCloudサービスを提供中止すれば、ユーザー体験が悪化し、実際、中国人顧客にとってデータのプライバシー保護やセキュリティが低下するため、新制度に基づいたサービス提供が優ると判断したという。

その結果、アップルは中国国営の雲上貴州大数据産業発展(Guizhou Cloud Big Data Industry)と契約を結び、中国人ユーザー用のデータセンターを設立。この企業は2014年、中国南西部の比較的貧しい貴州省で省政府の出資によって設立された。同社は中央政府や中国共産党とのつながりが深い。

今回のアップルの決定は、中国事業を営む多くの米テクノロジー企業が直面する困難な現実を浮き彫りにしている。営業機密の窃取や中国人顧客の権利侵害という懸念はあるものの、中国企業との提携、データの中国保管という要求を受け入れなければ、この美味しい市場へのアクセスを失ってしまうリスクが生じる。

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