企業向けの宅配弁当事業を展開しているあづま給食センター。同社の特長は、創業50年を超える老舗ながら、ITを積極的に取り入れ「弁当のDX(デジタルトランスフォーメーション)」を推進している点にある。6月から新たにNFC決済機能を備えた「OBENTO‐PIT(オベント・ピット)」を展開し、ウィズコロナ、アフターコロナにおける「新しいランチ様式」を提案するという。
新型コロナウイルスによって、これまで「普通」や「当たり前」とされていた物事が一変している。毎朝、満員電車に揺られてオフィスへ通勤するのが当たり前だったビジネス像も、一変した。急激に浸透したテレワークによって、オフィスへ通うことなく、多くの人が在宅で仕事をするのも不思議ではなくなりつつある。
とはいえ、このまま新型コロナウイルスの影響が収まっていけば、ビフォーコロナほどとはいかずとも、オフィスへ出勤する回数は増えていくはずだ。そんなとき、気になるのがランチ事情。特に都心部のオフィスビルなどでは、各フロアにオフィスが密集し、お昼どきになり外出しようとしても、エレベーターは「3密」が危惧される。また、せっかく外出しても、各飲食店は“密”を避けるために席と席の間を空けて営業しているところも多く、混雑する時間帯に入店するのが難しいケースもあり得る。
こうした事態に対し、注目が集まるのが、混雑を避け、職場で弁当を受け取れる宅配弁当サービスだ。わざわざ混雑するエレベーターに乗る必要もなく、そもそも外出せずに職場内で安全に食事をとることができるのが宅配弁当サービスの強み。中でも、ITを駆使し「弁当のDX(デジタルトランスフォーメーション)」を果たし、ウィズコロナ、アフターコロナの時代に即したオフィスランチのスタイルを提案しているのがあづま給食センターだ。
もともとITとはあまり縁のなかった同社だが、キーエンスでの法人向けコンサルティング営業や経営大学院でITマーケティングやサプライチェーンについて研究したという異色の経歴を持つ古川直社長によって、急速なIT化を遂げつつある。
同社は東京都内で企業がオフィスを多く構える地域(葛飾区・江戸川区・墨田区・台東区・北区・足立区・江東区・千代田区・港区・品川区・中央区・文京区・荒川区・新宿区)、そして千葉県の市川市と船橋市を対象に、1食450円で弁当の販売・配送を行っている。最低注文数は、月曜日から金曜日まで、平均して1日4食以上。ユーザーの負担は弁当代のみで、専用端末などの負担にコストはかからない。
弁当を希望する場合は、毎日午前9〜10時ごろの期限までに、電話やFAX、専用端末などを通して注文をすると、お昼ごろにオフィスに弁当が到着するという仕組みになっている。古川社長によると、新型コロナウイルスの感染が拡大する以前は、1日当たり4500食ほどを配送していた。緊急事態宣言の発令を受けて、一時期は半減ほどに落ち込んだが、最近は3600食辺りまでニーズが戻ってきているという。
同社の特筆すべきポイントは、弁当の種類が1つのみという点だ。多くの弁当メーカーでは、多種多様な弁当の種類を取りそろえていることも多いが、配送効率や1食450円という価格で提供することを考え、創業当時から1日につき1種類の弁当のみで勝負をしている。とはいえ、ユーザーが飽きることのないように毎月、新作メニューや新しいソースなどを多数考案している。メニュー開発が最も重要な作業であるという。
また、創業50年を超える老舗ながら、「弁当とITの融合」を企業理念の一つとし、さまざまなサービスを展開して弁当のDXを実現していることも大きな特徴だ。宅配弁当は、上述の通り弁当を宅配することで、オフィスから出ずに昼食を食べられることがメリットだが、その分担当者の負担は小さくない。例えば、これまでであれば毎日、弁当を希望する人が何人いるかを取りまとめ、電話やFAXなどで申し込む必要があり、また希望する人から集金して支払うことなどが必要だった。しかし、中小企業やベンチャー企業では総務担当者がいないケースもあり、最近では大企業でも総務部で弁当担当者を削減するケースが多く、導入企業を増やす上で課題となっていた。
そこで、あづま給食センターは2015年、企業ごとにURLを発行し、そのページにアクセスすることで弁当を希望する人が企業の担当者を経由せずに注文・決済・集計するシステムを構築し「OBENTO-GO(オベント・ゴー)」というサービスを開始した。それ以前は導入を検討する企業に対して飛び込み営業をかけ、無料キャンペーンや半額キャンペーンを提示して導入のセールスをしていたというが、システムを提供し始めてからはひっきりなしに問い合わせが来るようになり、5年近くあづま給食センターから営業をかけることはしていないという。
その後、交通系ICカードでタッチ決済できる専用端末を提供したり、QRコードでの決済を可能にしたり、「OBENTO-GO」のサービスにTポイントや楽天ポイントなどの各種ポイントで弁当が購入できたりポイントをためることができるようにしたりと、さまざまなシステムを矢継ぎ早に提供してきた。数年前までは、クレジットカードの登録に難色を示したり、QR決済を中心としたペイメントサービスもまだまだ認知度が低かったりという課題があったと古川社長は話す。しかし、昨今のキャッシュレスブームなどを受けて、徐々に注目を集め、利用者も順調に増えてきているという。「今はペイメントサービスもたくさんあり、利用者も増えてきた。開始した当初は、まさかこんなに増えるとは思わなかった」と古川社長は振り返る。
6月からは「OBENTO‐PIT(オベント・ピット)」として、「非接触」「無人」「キャッシュレス」「2クリック」を打ち出した販売形態を提供し始めた。ユーザーは、あづま給食センターのアプリをダウンロード。クレジットカードかApple Pay、またはGoogle Payのいずれかを登録すれば、専用のシールにスマートフォンをかざすだけで注文・決済できるというNFC(近距離無線通信)を活用したサービスだ。また、注文した際にはスタンプが1個たまり、20個集めると1食分が無料になるという要素も新たに加えた。
同サービスは長らくあたためていたアイデアであり、もともと数年以内をめどに提供を開始する予定だったという。「NFCに対応していないスマホを持っている方もまだ多少おり、数年後、ほとんどの人がNFCに対応したスマホを持つようになるころに照準を合わせてリリースする予定だった」と古川社長は話す。計画を早めてリリースした背景には、新型コロナウイルスの感染拡大がある。
OBENTO‐PITがあれば、弁当の売り子などが不要になり、人と人との現金の受け渡しもなくなるので、感染のリスクが低まる。今後はランチタイムの混雑防止のため、お昼休憩を交代制で取るようにするケースも想定できるが、その場合、長い時間売り子を用意する必要が出てくる。しかし、OBENTO‐PITを活用すれば、売り子が不要で弁当を販売でき、人件費の削減につながるのもメリットだという。また、安価なシールを使用することにより、端末機器やタブレットに比べ大幅なランニングコストの削減にもつながる。さらに、弁当を注文した人に対してプッシュ通知を送信することができ、例えばフロアごとに通知する時間をずらすことで、受け取り場所の“密”を防ぐことができるのだという。
古川社長によると、登録や決済を簡便にし、また“密”を防止するだけでなく、今後は新たなユーザー層の開拓も狙っていくという。これまでは、事前注文を受けて、その件数分の弁当を企業へ配達する方式を採っていたが、これを改める。
従来は9時や10時など、決められた時間までに注文しないと弁当を受け取ることはできなかったが、今後はある程度の需要予測を基に、各企業へまとまった数の弁当を配送し、ユーザーが食べたいタイミングでOBENTO‐PITを通して注文・決済できるようにする。「かなりのこだわりを持った人でないと、朝の時間帯に弁当を注文しよう、とはならない。ランチタイムになり、お腹が空いたタイミングでお弁当を注文できるようにすれば、これまで以上にユーザーを増やすことができる」と古川社長は狙いを話す。今後は、NFCで注文・決済ができる「OBENTO‐PIT」と、専用サイトやQRコードを経由した事前注文決済集計方式の「OBENTO‐GO」の2本柱でウィズコロナ、アフターコロナの“新しいランチ様式”を提供していくという。
さまざまなITを駆使し、新たなサービスを提供しているあづま給食センターだが、今後はどういったサービスを検討しているのだろうか。古川社長は「対応するペイメントサービスを増やしていきたい。そして、このサービスを海外のニューヨーク支社やニュージャージー支社でも展開していけたら面白い」と話す。また、「実は、QRコードの読み込みやタッチ決済も不要な、弁当を取るだけで自動的に決済できる仕組みも考えている」と明かした。まだまだ技術的な面で実用化には遠いと話すが、最近は顔認証などの精度もどんどんと高まっており、無人コンビニなども話題になっている。あづま給食センターの手掛ける「弁当とITの融合」から、今後も目が離せない。
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提供:株式会社あづま給食センター
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2020年7月31日