新型コロナウイルスの流行やアウトドアブームによって、ホームセンターに追い風が吹いている。“おうち時間”を充実させるためのグッズや、ソロキャンプ向けのアイテムなどを求め、店舗は連日多くの来店客で賑わっている状況だ。
そんななかで問題となったのが、店内の「3密」だ。特に、緊急事態宣言発令中の2020年4月には、マスクやトイレットペーパーを求めて客が殺到し、店内が大混雑する状態になった店舗も少なくない。
ホームセンターのカインズでも同様の問題が起きたという。特に混雑が目立った浦和美園店にて、混雑状況を店頭のデジタルサイネージとスマートフォンアプリでリアルタイムに表示する実証実験を開始。その他にも専用アプリで決済して店頭やロッカーで商品を受け取る仕組みの展開など、さまざまなデジタルソリューションを通して、感染対策と顧客体験の向上を図っている。
即座にこのような対応ができた背景には、コロナ禍以前からのデジタル化の取り組みがあるという。デジタル戦略本部・店舗イノベーション室長の水野圭基氏にデジタル化施策の方針や、“お客さま・従業員ファースト”でITを活用しているという店舗づくりについて話を聞いた。
カインズはコロナ禍以前からデジタル化に取り組んでいる。19年3月には、21年度までの3カ年中期計画「PROJECT KINDNESS」を発表。「IT小売業に生まれ変わる」として、デジタル関連事業に3年間で100億〜150億円を投資することを明らかにした。同社はこの施策を「第3創業」と位置付け、DX(デジタルトランスフォーメーション)を通した全社改革を進めている。
デジタル化の中核を担うデジタル戦略本部に水野氏が異動したのは、組織が始動する直前の18年12月。「その前は元店長として現場にいたので、異動してきた当初はデジタルアレルギーでした」と水野氏は笑う。現場が長かった強みを生かし、販売部とのコミュニケーションのハブとなり、ITを活用した現場の業務改善を進めた。
始めに取り組んだのは、店員が業務用端末から使用する売場案内アプリの開発だ。店員は接客中、商品の場所を尋ねられる頻度がとても高いという。しかし、担当以外の商品の配置を知らなかったり、アルバイトが配置を把握しきれていなかったりして、別の担当者にバトンタッチすることは少なくない。なにせ、広大な店舗には10万点ほどの商品が並んでいるのだ。
「その中から特定の商品の場所をすぐに答えるには難しいケースもあり、接客に時間がかかってしまっていました」
そこで、売り場案内の効率を目指し、どの売場に何の商品があるかをマップ上でピンしたアプリを開発。アプリを従業員が店舗で持ち歩いて使うスキャナー付き業務用端末(ハンディターミナル)に搭載した結果、手元ですぐに商品の場所を探せるようになり、売り場案内にかかる時間が約40%も削減された。アプリ開発から4カ月でプロトタイプをリリースし、8カ月後には全社展開するスピードの速さだった。
さらに「お客さまのアプリにも生かしたほうがいい」という声が挙がり、カスタマー向けのスマホアプリもゼロから作り直した。従来はポイントがたまる機能のみだったが、今ではアプリ上で商品の場所を探せるようになっている。
従業員用のハンディターミナルも、それまではインターネット通信が不可能な端末だったが、より多くの機能が使えるようにAndroidを搭載したネット通信可能なモデルを海外から取り寄せ、全台を入れ替えた。
「当社はコロナ前から海外のホームセンターに定期的に視察に行っています。このハンディターミナルも、海外で堅牢なモデルを使っていたので当社でも導入しました」
ハンディターミナルでは伝票を読み取ることで、店舗から店舗に移動させる商品や返品された商品などを管理している。この端末をアップグレードしたことで、業務効率も向上した。
従来の端末では、複数種類の業務で使うアプリが全て独立しており、アプリごとに切り替えが必要なうえ、切り替えるたびにログインが必要で、煩雑な操作となっていた。そのため、端末を使って管理する36業務を、全てAndroidに最適化。3カ月かけて新端末に機能を移行し、スムーズな操作が可能となった。
紙伝票による処理業務もハンディターミナルでデジタル化したことで、指示があるたびに事務所に戻ってPCで印刷する手間もなくなった。
「ホームセンターは敷地が広いため、移動のストレスがあります。私たちは歩いている時間が多く、午前中のシフトだけでも約1万歩。店長は常に売り場をチェックして回るので、1日で3万歩にも及びます。そのため、移動は最小限にしたいという思いがありました」
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