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コロナ禍の「事業計画」のヒントとは? 環境分析と数値計画の考え方「コロナだから仕方ない」はNG!(2/2 ページ)

» 2021年02月01日 07時00分 公開
[企業実務]
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内部環境の分析

 内部環境の切り口には、人材、組織体制、信用力、顧客提案力、商品力、営業力、知名度、立地、販路、技術力、安定供給力、資金力、ネットワークなどがあります。

 このなかから、事業のビジョンを実現するうえで重要な要素を、強みまたは弱みとして挙げていきます。

 これらを検討するツールを2つ紹介します。1つ目はマーケティングの4Pです。

1.マーケティングの4P

 4Pとは、(1)製品(Product)、(2)価格(Price)、(3)流通経路(Place)、(4)販売促進(Promotion)の頭文字をとったものです。

 4Pはマーケティング戦略を立案するためのツールですが、環境分析の切り口としても使えます(図表2)。

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 4Pではまず、売り物である(1)「製品」の価値が、顧客のニーズ(必要性)やウォンツ(欲求)に合致しているかどうかが問題になります。「製品」とありますが、品ぞろえや付加サービス、またはブランドイメージなど「売り物」を幅広く捉えて考えたほうがよいでしょう。

 例えば、コロナ禍で社会全体のオンライン化が進めば、モノ以上にサービスの質が差別化要因として重要になり得ます。

 (2)「価格」は、ライバルに対する価格競争力が大きなポイントですが、それだけではありません。価格(売価)から原価を引いた差額が粗利益ですから、原価が安いかどうか、売価と原価のバランスが取れているかどうか、といった視点も大切です。

 また、最近広がりを見せている月額定額制やレンタルなどの新しいビジネスモデルへの対応も検討が必要かもしれません。

 (3)「流通経路」は、販路や紹介ルート、立地条件に該当します。コロナ禍で通販や宅配の利用者が大きく増え、都心部や観光地の人の流れも変わりました。店舗の立地条件が従来とは変わり、メーカーから店舗への商流や物流も変化しています。重要な仕入先や外注先などがコロナ禍で事業縮小や撤退をしないかどうかの確認も必要です。

 最後の(4)「販売促進」は、広告宣伝や人的営業などです。広告媒体はスマホに移行し、SNSやスマホアプリを使った販促が増えています。キャッシュレス化が進み決済手段も多様化しています。

 また、取引先との商談もオンラインが増え、新規開拓の手法も変わってきています。飛び込み営業が敬遠される一方で、紹介や口コミの重要性がコロナ前より増していくでしょう。

 マーケティングの4Pを使えば、コロナ禍で変わりゆく事業環境に対して、自社の現状と今後の課題がいろいろと見えてきます。

2.バリューチェーンの活用

 もう1つ紹介したいツールは、バリューチェーンです。バリューチェーンとは、企業が顧客価値を生み出すプロセスをモデルであらわしたものです。購買物流、製造・オペレーション、出荷物流、マーケティング・販売、サービスの「主活動」と、全般管理(インフラ)、人的資源管理、技術開発、調達活動の「支援活動」から構成されています(図表3)。

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 製造業を意識したツールですが、少し応用すれば幅広い業種で活用できます。

 例えば、コロナ禍で人件費の圧縮を進める企業が増えていますが、コロナ後は確実に人材が不足するでしょう。人材の獲得と育成をどうすべきか(人的資源管理)は多くの企業にとって競争力を左右する重要な課題になります。

 バリューチェーンを使って事業プロセスを整理していくことで、競争力の源泉やボトルネックが明確になります。

方向性の打ち出し

 環境分析をすれば、事業を取り巻く機会と脅威、また、自社の強みと弱みが見えてきます。これをSWOT(スウォット)にまとめます(図表4)。SWOTの由来は、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の頭文字です。

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 WEOTを作成したら、次のような視点で事業の方向性を打ち出します。

(1) 機会をつかむには、強みをどう生かせばよいか?

(2) 回避すべき脅威は何か?(やめるべきことは何か?)

(3) 克服すべき弱みは何か?

 これらを明文化したものが事業戦略となり、それを実現するための取組みが行動計画(アクションプラン)になります。

コロナ禍での数値計画の考え方

 コロナ禍のいま、収支やキャッシュフローの推移を予測しづらくなっています。そのため、数値計画を立てるうえで、押さえておくべきポイントがあります。

 まず、事業計画を社外に提示する場合は、後で達成度が問題になります。

 例えば、金融機関から事業資金を調達する場合、事業計画の達成度が低いと以後の融資条件が悪くなる可能性があります。そのため、社外に提出する事業計画は数値を抑えめ(固め)に作成したほうがよいでしょう。

 一方で、社内で共有する数値目標が低すぎると、モチベーションが下がってしまいます。社内の事業計画は、背伸びして届くかどうかの強気の数値にしたほうが効果的です。

 つまり、事業計画は社外向けと社内向けで2つ作成して使い分けるのがよいでしょう。言葉を換えれば、社外には必達目標を約束し、社内には努力目標を示すといった感じです。

 また、コロナ禍で予期せぬ事態が起きるかも知れません。状況が変われば、計画の前提条件も変わります。危険なのは、前提条件が変わっているにもかかわらず、一度立てた事業計画に固執してしまうことです。ブレーキを踏むべきときにアクセルを踏めば、崖下に真っ逆さまです。

 そこで、コロナ禍が予想以上にひどくなった場合の見直し条項を事業計画に記載し、関係者のコンセンサスを得ておくことをお勧めします。

 コロナ禍は、しばらく続くと予想されます。ウィズコロナでも事業計画をしっかりと立て、事業の立て直しや成長に向けて取り組んでいきましょう。

著者:井海 宏通(いかい・ひろみち) 株式会社経営戦略オフィス/中小企業診断士

株式会社経営戦略オフィス代表取締役。大学卒業後、システムエンジニア、財務コンサルタントを経て平成18年に独立。沖縄を拠点に事業再生の経営コンサルタントとして活躍中。


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