小売業界を変えるAI技術 「手ぶらで買い物」が当たり前の世界に

» 2021年03月18日 10時00分 公開
[PR/ITmedia]
PR

 AIを社会課題の解決に向けて活用する試みがここ数年活発化している。最新のデジタル技術を用いた効率化や最適化は広く浸透してきたが、それにAIを組み合わせることでさらに最適化を進めつつ、これまでは考えられなかったような新たなソリューションが生まれている。

 典型的なのが小売業界で広がりつつある「スマートストア」だ。小売りの現場に積極的にデジタル技術を取り入れていくことで、省人化と顧客の利便性を向上させ、さらに「Amazon Go」に代表される「Grab&Go」のような仕組みも登場した。

国内でもスマートストアの事例が増えつつある。写真は富士通の新川崎テクノロジースクエアに設置された「Lawson Go」

 Grab&Goのコンセプトは、買い物客が商品を手に取ってそのまま退店すれば、レジの行列待ちやレジ処理なしで精算が行われるというもの。店内ではカメラなどのセンサーがつねに来店者の動きを追跡しており、その挙動から手にした商品を把握し、退店時にはバーチャルカートに登録された商品一覧をもとに、クレジットカードなどの決済情報で支払いを完了させる。

 こうしたスマートストアは、最先端AI技術の集大成とも呼べるもので、17年以降に多数の関連技術を開発するスタートアップ企業を生み出したことからもその影響力が分かる。

 日本においてもGrab&Goのコンセプトに基づいたスマートストアが誕生しつつある。実営業店舗ではないものの、デモ用のコンセプトストアとしてNTTデータが中国Cloudpickとの提携で19年9月に六本木に設置した「レジ無しデジタル店舗出店サービス」の店舗、JR東日本スタートアップがサインポストとの提携で翌20年3月に高輪ゲートウェイ駅に設置して一般開放を行った「TOUCH TO GO」などだ。

 そして今回紹介するのは、20年2月に富士通の新川崎テクノロジースクエアに設置された「Lawson Go」。これはローソンが米Zippinの技術を利用して実現した「完全デバイスフリー」のスマートストアだ。店内カメラによる来店者の行動追跡や、棚センサーによる商品の増減把握に加え、入退店の仕組みにマルチ生体認証(顔認証と手のひら静脈認証)を用いている。

 スマートストアにおける最新の取り組みについて、富士通 リテールビジネス本部 DXビジネス事業部 シニアディレクターの石川裕美氏と、デジタルビジネス統括部 ソリューション企画部 部長の虻川さおり氏に話を聞いた。

AI技術で小売業界の人手不足を解決

富士通 リテールビジネス本部 DXビジネス事業部 シニアディレクターの石川裕美氏

 小売業界における人手不足や、24時間営業の問題が取り沙汰されるようになり、店舗側で解決すべき課題と、利用者側の利便性をいかに両立させるか――スマートストア開発に富士通が取り組んだ背景を石川氏はそう説明する。

 富士通が国内総代理店を務めるZippinのシステムは、「低コストで導入できる点」が特長だ。先行するAmazon Goは、店舗内に大量のカメラなどのセンサー装置が取り付けられており、1店舗あたり億単位の初期導入コストがかかるのではないかと試算されている。もちろん、導入店舗が増えれば全体的なコストは下落傾向に向かうが、それでも一般的な小売店舗の改装コストよりはかなり高くつく。

 一方、Zippinのソリューションは、汎用的なカメラとそれに取り付けるエッジAIデバイスおよび棚センサーで構成される。あとは一般的な通信回線さえあれば、行動追跡やチェックアウト処理も全てクラウドを介して行われるため、専用のサーバを店舗内に設置する必要もない。

富士通とZippinの協業で実現したスマートストアの仕組み

 また、Zippinのソリューションでは商品学習が最低限で済むという点も大きい。一般に、AIによる画像認識では商品の特徴を漏らさず把握させるため、さまざまな角度から商品撮影を行って画像認識のための“学習”データを生成する。ただ、これでは商品登録だけで膨大な時間が必要になってしまう。一方、Zippinシステムは、新規の商品であっても事前に棚割りを登録しておくだけでよく、学習のための特別な作業は必要ない。これは棚センサーを商品の増減把握に活用しているためで、アイデア的にも面白い。

顔認証と手のひら静脈認証で手ぶら決済を実現

 Lawson Go店舗では、Zippinの行動追跡とレジレスチェックアウトのシステムに加えて、入退店の仕組みに富士通の生体認証技術を取り入れている。Amazon Goでは専用アプリで2次元コードを表示させ、それをゲート上のセンサーにかざすことで入店できるが、Lawson Goではスマートフォンやカードなどの物理デバイスは一切必要なく、入り口のカメラに顔を向けつつ、手のひらをセンサー上にかざせば、ゲートが開いてそのまま入店できる。

富士通の顔認証と手のひら静脈認証技術を活用

 このマルチ生体認証を用いた仕組みは、「正確性の向上」「処理速度の向上」「データベースに登録可能な人数の増大」の3つでメリットがあるという。最初に生体情報と決済情報(クレジットカード情報など)を登録する必要はあるものの、以降はスムーズな入店と退店が可能になる。

電子レシートを配信

 2種類の生体情報をデータベースと照合させるため、1種類のみの場合と比べてエラー率が極めて低く、データベースの絞り込みも容易になり、処理速度やスケーラビリティの面で大きな飛躍となる。富士通によれば、クラウドを介した生体情報による認証サービスの拡大も検討しているとのことで、Lawson Go以外にも似たような認証サービスが適用される可能性がある。

 この生体認証は入店時のみで、商品を手に取った状態で退店すれば、その情報をもとにチェックアウトと請求が自動的に行われ、購入した商品と請求は電子レシートで受け取ることができる。あらかじめ決済情報を登録しているからこその仕組みだ。

さまざまなサービスで活躍するAI

 Lawson Goで取り入れられた仕組みは、冒頭にあるような社会課題解決の一助となる。小売・流通業界における最大の課題は人手不足にあるが、Lawson Goのような店舗フォーマットであれば、これまでコンビニ店舗の導入が難しかったような事業所やビル内であっても、最小限の人員での運用が可能となる。

 また、24時間営業についても、夜間帯の運営を無人化して遠隔監視を中心としたものに変更とすることで、現地にスタッフがいなくてもコンビニ営業ができるかもしれない。実際に、高層マンションやオフィスビルなどの不動産を抱えるデベロッパーやテーマパーク運営者、ホテルなどから問い合わせが多数あるといい、その可能性への注目度は高い。

富士通のレジレスソリューションを一般客向けに導入した、光洋ショップ-プラスのグリーンリーブスプラス横浜テクノタワーホテル店

 富士通は、小売業向けDXソリューションとして、顧客自身が持つスマートフォンで買い物を完結させる「Scan&Go」の仕組み(名称は「Brainforce ウォークスルーチェックアウト」)も提供している。いまコロナ禍においてBOPIS(Buy Online, Pick-up In Store)やオンラインデリバリーなど、非接触へのニーズの高まりに対しても、柔軟な買い物手段を顧客に提案している。そして今回の「Lawson Go」だ。前段のように「Grab&Go」の仕組みは、ビル内店舗や店舗内店舗といった、“マイクロマーケット”と呼ばれる、これまで人員配置が難しかった市場への進出が期待されている。

富士通 デジタルビジネス統括部 ソリューション企画部 部長の虻川さおり氏

 虻川氏は「市場ニーズの変化にいち早く、かつ柔軟に対応するためには、小売業のお客さまとともに考え、解を導き出し、お客さまの経営革新、事業革新に寄り添う、新DXパートナーとなるべく、活動を進めていきたい」と話す。

 手ぶらでお店に入り、気に入った商品を手に取って、レジを通さずに退店する。そんな“新しい買い物の体験”を実現する「Grab&Go」の仕組みを紹介したが、これ以外でも私たちが日々利用しているお店でAIは広く利用され始めている。店内のカメラ映像から顧客の属性や行動を分析する、ビッグデータによって需要予測を行う、それらを購買体験のさらなる向上に役立てる――社会インフラの一翼を担うリテール業界のデジタル革新は、私たちの生活をより便利で豊かなものに変えていくはずだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:大和アセットマネジメント株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2021年3月25日