DX支援を注力領域の一つとして掲げる電通グループ。「創り出すDX データで築く、新しい未来」と題し、最新テクノロジーを活用する現場の取り組みを紹介する。今回は「人工衛星データ」を活用した新たなマーケティング方法とその将来性について尋ねた。
商品やサービスの売り上げに直結するマーケティング施策は、タイミングが鍵を握る。適切な時期を逃してしまうと、施策の効果が薄れるだけにとどまらず、経営計画や企業活動全体に影響を及ぼしかねない。
そういったマーケティングの課題に対して、電通グループが「人工衛星データ」を活用した支援を開始した。電通グループは、2022年7月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携を発表。衛星データの分析などを進めるスペースシフトや、グループ会社でAI解析を手掛けるデータアーティストなどと共に衛星データの分析を進め、農作物の収穫時期に合わせたマーケティング施策の実施や需給連携の最適化、新たなビジネス創出につなげる。
衛星データがどのようにビジネスに役立つのか。事業の展望や将来性について、電通 ラジオテレビビジネスプロデュース局の足木勇介氏とデータアーティストの鈴木真由子氏、スペースシフトの多田玉青氏に話を聞いた。
キャベツの価格が下がった時に、調味料商材のテレビCMを放送できないか――。電通が衛星データをマーケティングに生かせるのではと考えたのは、食品メーカーからのこんな相談がきっかけだった。
「当初はデータアーティストと共に、天候データから生育状況を予測し、過去の出荷量や価格などを基に価格の予測を立てていましたが、さらに予測精度を上げる方法はないか考えていました。そんな時、社内横断チームである電通宇宙ラボの存在を知り、衛星データを使って野菜の生育環境を分析できる点が活用可能なのではと思い立ちました」(足木氏)
今回の連携では、衛星データなどを基にスペースシフトが農作物の生育状況や収穫時期を解析し、データアーティストが農作物の供給量や価格といった需給予測を算出。電通は、最適なタイミングに合わせてテレビ広告の組み換えを実現するシステム「RICH FLOW(リッチフロー)」を用いて、マーケティング効果の最大化を支援する。
これまでもAIを活用しデータ解析を進めてきたデータアーティストの鈴木氏は、「衛星データの活用は連携の強みになる」と自信を見せる。
「需要と供給の最適化を目指した分析を進める中で、価格と出荷量が相関しなかったり、予測した値と実際の値が全く外れたりする場合がありました。AIの開発会社としてその理由を考え、予測精度を上げるロジックを再検討していましたが、価格や出荷量も純粋なロジックで決まっているのではなく、人が意図して操作できる点に根本的な原因があるのではと感じていました」(鈴木氏)
例えば、キャベツが大量に収穫できた場合、生産者は運送料などを考慮し、出荷せずに廃棄する場合がある。そのような“人の動き”があると、これまでのロジックでは説明できない整合性のないデータになる。そこで期待されるのが衛星データだ。「出荷前の生産段階からモニタリングでき、これまで知り得なかった情報を基により精度の高い予測を立てることができます」(鈴木氏)
衛星データをマーケティングに活用することで具体的に何がどう変わるのか。足木氏は「大きく3つある」と話す。
1つ目は、冒頭で紹介したような、広告投下タイミングの最適化。予測精度を高め、より適したタイミングを狙って広告を展開することで、新たな需要の創出が見込まれるという。
その一例として、足木氏はある天気予報アプリを挙げる。梅雨の時期、天気予報で雨の予報が出ている期間に広告を出すと、ダウンロード効率が2倍以上に跳ね上がった。「機会を逃さずにアプローチすることで、新しいチャンスが生まれる側面もあると考えるきっかけになりました。衛星データを活用することで、現時点では思い付かない新しい需要がどんどん生まれる確信があります」(足木氏)
2つ目が、該当する農作物に関連した流通や飲料メーカー、生産者といった、多くの人を巻き込んだ共同プロジェクトに発展できる点。3つ目は、電通グループが強みとする媒体社との連携だ。各地の情報番組などを通じて生産者のメッセージをより的確なタイミングで消費者に発信できるようになる。
これらを駆使することで、仮に例年より収穫量が多くなった場合も、生産者側は従来のように廃棄せずに農作物を出荷でき、スーパーや食品メーカーも、関連商品をタイミングよくプロモーション、販売できる。その結果、地元生産者の支援や地産地消を目指せるだけでなく、結果的に食品ロス削減といった社会課題の解決にもつながる。
「電通グループは、複雑化・高度化する企業課題から本質的課題を発見し、統合的なソリューションを提供する『IGP(Integrated Growth Partner)』を標ぼうしており、さまざまなテーマで顧客企業との取り組みを進めています。その中でも社会問題の解決は重要なテーマの一つと考えており、今回のビジネス連携が食品ロスの削減に少しでも貢献できればと思っています」(足木氏)
遠い宇宙空間から情報を伝える人工衛星は、気象や位置情報を伝えたり地球上の変化を捉えたりと、私たちの生活に大きくかかわってきた。近年は、ビジネスへの利活用が拡大している。しかし、今回のように衛星データをマーケティングに活用した事例はほとんどなく、多田氏は「間違いなく先進的で面白い事例」と胸を張る。
「地球を観測する人工衛星の機数が増加する中、建設、金融・保険、環境、農業、災害対応等のさまざまな事業分野で衛星データの利活用が進められています。ただ、今回のように、衛星データをマーケティングに応用し、需要と供給の創出、バランスを促すような事例は、世界的にみてもほとんどありません。
衛星データと聞くと難しそうに感じますが、あくまで1つのデータです。当社が開発しているような、衛星データを容易に解析できる技術を提供できれば、将来的には多くの人が負荷なく活用できるようになります。衛星データを解析することによって何が分かるのかを明確にし、他のデータと補完し合いながら、持続可能な社会の実現に向けて、ビジネスへの活用を幅広く進めていきたいと考えています」(多田氏)
最適なタイミングでマーケティング施策を実行し、需要と供給を最適化できれば、今後の事業活動全体を大きく変え、新たなビジネスチャンスが生まれる。柔軟性、正確性、機敏性を兼ね備えたマーケティングが、変化の激しい時代には欠かせない。
足木氏は「需給バランスの調整は多くの業界で課題となっています。今回の連携が各事業者の課題解決に貢献するだけでなく、われわれ一般生活者の視点としても、最適のタイミングで、一番いい状態のものを、安定した価格で享受できるようなプロジェクトになればと考えます」と展望を語る。
電通グループが始めた衛星データ活用は、これからの企業マーケティングを長期的に支えていくだろう。
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提供:株式会社電通グループ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2022年12月23日