日清食品の「デジタル武装戦略」とは? 生成AI普及プロジェクトからみる、組織変革のメソッド

» 2025年01月28日 11時00分 公開
[西本愛子ITmedia]

 業務変革やイノベーションの創出を目指す上で、もはや生成AIは欠かせないデジタルツールだ。生成AIの普及とともに、ビジネスシーンに適用する経験が積み重ねられ、その成果もさまざまな企業から出始めている。これを受けてビジネスユーザーの意識も「取りあえず試してみる」から「顧客に付加価値を提供するために使う」へ変化しつつある。

 早くからDXに取り組み、ローコード開発によるアプリ内製化や、生成AIによる業務変革を推し進めてきた先駆的な存在が、日清食品ホールディングスだ。同社が「変革」にこだわるのは、停滞を恐れる危機意識の裏返しでもある。アイティメディア主催のオンラインイベント「デジタル戦略EXPO」(2025年1月28日〜2月24日)に登壇した同社の事例では、同社が業務部門のデジタル活用を支援する際に重視した「デジタルリスキリング」の具体例と、定量的な成果を知ることができる。

成田敏博氏 成田敏博氏(日清食品ホールディングス執行役員CIO)

 日清食品ホールディングス執行役員CIOの成田敏博氏によれば、同社の経営層は従業員に向けて「『カップヌードルシンドローム』に陥ってはならない」と繰り返し警告している。いわゆる「大企業病」のような、ブランドに甘んじて改善を止めてしまったり、新しいことへの挑戦を避けてしまったりする問題を同社は「カップヌードルシンドローム」と呼んでおり、だからこそ常に新しいテクノロジーを取り入れ、過去の自分たちを破壊し、新たに生まれ変わらなければならないと考える。こうした経営層の危機意識から、同社は「デジタルを武装せよ」というキャッチコピーを掲げ、トップダウンでグループ全体のデジタル活用を推進。現在のIT戦略は、

  • サイバーセキュリティ
  • グローバルITガバナンス
  • 業務部門のデジタル活用支援
  • 先進ネットワーク、モバイルデバイスの活用
  • データドリブン経営に寄与する基盤整備

という5つの施策を強化項目としている。中でも業務部門のデジタル活用支援は、2021年10月に設置した組織「デジタル化推進室」が中心となり、ローコード開発やモバイル活用、生成AI活用などに取り組みながら全社的な成果創出を主導している。営業部の販促計画・実績入力や新製品リスト作成、総務部の各種申請業務、生産部門の材料差額伝票作成やISO食品安全管理など、多岐にわたる現場業務のデジタル化を成し遂げ、2022年度は年間作業工数10万563時間を削減する効果が確認できたという。

 とはいえ、成田氏によればこれらの活動は急進的なものではない。セキュリティやコンプライアンスのリスクを事前に十分検討し、まずは小さなチーム単位で素早く成果を出してみて、検証しながら活動を横展開していった。テクノロジーの普及には、IT教育や社内広報も重視したそうだ。経営層が変革の意思を直接伝えてトップダウンで推進する活動と、テクノロジーを現場に定着させて「もっと使いたい」という意欲を引き出すボトムアップの工夫を組み合わせることが、日清食品グループにおける生成AI普及のポイントであり、同社が組織変革で重視するポイントでもある、と同氏は語る。

 講演では、日清食品グループが取り組んだ数々のデジタル活用支援施策について、具体的なプロセスやスケジュール、活用促進の工夫などを詳しく紹介している。生成AIのプロンプト作例や、全社統合データベースと生成AIを連携させた経営レポーティングシステムは、生成AIからインサイト(洞察)を引き出して価値を創造した事例として大いに参考になるだろう。デジタル戦略EXPOは、2025年2月24日まで無料で視聴できるので、ぜひチェックしてほしい。

日清食品のデジタル武装戦略、ポイントを徹底解説

デジタル経営戦略やAI活用、業務効率化など、9カテゴリーのトレンドを学べる「ITmedia デジタル戦略EXPO 2025 冬」。ビジネスパーソンが“今”知りたいデジタル戦略の最前線について、有識者が語ります。日清食品グループのデジタル武装戦略や生成AI活用の成果を詳しく紹介する講演は、こちらから無料でご視聴いただけます。

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