印西市では2025年に入り、住環境や健康被害への懸念から住民有志が市議会に新規建設反対の署名と陳情を提出した。これを受けて藤代健吾市長は自身のX(旧ツイッター)で、
この場所には、こうした地域の状況にふさわしい施設が整備されるべきであり、それはデータセンターではないと考えています
と異例の反対表明を行い、注目を集めている。データセンター誘致で税収を増やしてきた自治体の市長が公然と反対を示したのは異例である。
全国的にもデータセンター建設に対する住民の懸念は広がっている。2023年には千葉県流山市で住民の強い反対により建設計画が中止された。
反対理由の多くは、従来の工場や産廃処分場のような有害物質の排出や汚染が立証された「旧来型の公害」とは異なる。むしろ近年の反対運動は、
――といった施設の性質に対する理解不足から生じる懸念が大きい。データセンターは外観上の稼働感が乏しく、空きビルのように見えるため、周辺住民の間で「何が行われているか分からない」こと自体が不安の種となっている。
印西市で問題視されているのは、予定地が地域の中心である千葉ニュータウン中央駅前のイオンモールに隣接した駐車場跡地であることが大きい。この立地ゆえに、日常生活に不可欠なインフラであるにもかかわらず、その恩恵が実感しにくい。さらにイオンモール隣接ということから将来的に商業施設が建つとの漠然とした期待もあり、それが反発を強めている。
では、データセンターは本当にネガティブな存在なのか。確かに雇用効果は限定的だ。建設期を除けば、稼働後の常勤人員は少ない。一方で、税収面での貢献は極めて大きい。
千葉ニュータウンは、かつて計画人口34万人を掲げた首都圏最大級のニュータウン構想だったが、実現せず「失敗事例」として語られてきた。だが印西市は、2018年に人口10万人を突破し、現在は11万人超に達している。2024年には人口増加率1.2%で全国3位にランクインした。
背景には、都心部の住宅価格高騰がある。相対的に割安な印西市の住宅価格と交通利便性が再評価された結果だ。加えて、データセンターがもたらす多額の税収によって行政サービスが充実し、住環境の魅力が高まっている。
データセンターは建物・設備が高額なため、通常施設とは比べものにならない固定資産税収を生む。一度建設されれば長期間使われるため、自治体にとっては安定した財源となる。
この税収効果により、印西市では2024年9月から学校給食費を無償化する。子育て世帯にとって魅力的な施策であり、人口増加を後押しする構図が明確になりつつある。
2024年の「住み続けたい街ランキング(大東建託調査)」首都圏版で、印西市は3位にランクインした。
「データセンター税収 → 市民サービス充実 → 人口増加 → 税収増加」という好循環が形成され、持続可能な自治体運営のモデルが確立されつつある。
反対問題の核心は、立地の特殊性にある。これまで印西市内のデータセンターは住宅地から離れた場所に建設されてきた。しかし今回は、前述のとおり、千葉ニュータウン中央駅前という商業地に建設予定地が設定された。これまでとまったく異なる土地利用である。
事態を複雑にしているのは、当該エリアが都市計画上、商業地域に指定されている点だ。本来は商業施設や業務施設の立地が想定されたエリアであり、データセンターの建設は計画通りの用途に沿ったものである。
一方で、近接するマンション群こそが、本来の土地利用の枠組みから逸脱していた。事実、マンションの北側には第一種住居地域、西側には第二種住居地域が広がっており、住環境を重視するならば、住宅はそちらに集中すべきだった。
印西市の失策は、将来的な用途の衝突リスクを見通せないまま、商業地域への住宅建設を許可した点にある。結果として、「住民と産業施設が対立する構図」を生んでしまった。こうした都市計画の歪みの背景には、千葉ニュータウン開発の迷走がある。当初の構想では34万人規模のニュータウンを目指していたが、人口は伸び悩み、一時はゴーストタウンともやゆされた。
計画が頓挫するなか、行政は人口確保を最優先課題とし、整合性を欠いた土地利用が許容されるようになった。長期的な都市計画よりも、目先の転入促進が優先された。その象徴が、商業地域へのマンション建設である。
本来ならば用途に応じたゾーニングが守られるべきだった。しかし現実には、その場しのぎの許可が繰り返された。その結果、いま住民とインフラの利害が正面衝突するという構図が生まれている。
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