国内でデータセンターの建設が加速している。データセンターとは、膨大な情報を保管・処理・管理するための専用施設であり、インターネットやクラウドサービスの根幹を支えるインフラだ。
施設内にはサーバー、ネットワーク機器、ストレージ装置などが集中的に設置され、これらを365日24時間体制で安定稼働させるため、電源供給、冷却設備、耐震・防火構造、セキュリティ体制などが整備されている。
Google、Amazon、Microsoftのほか、国内ではNTTやソフトバンクが自社・顧客向けに運営する。SNS、動画配信、オンライン会議、電子決済、クラウドストレージなど、私たちの生活に不可欠なサービスの裏側では、こうしたデータセンターが膨大な演算・通信処理を担っている。
近年は生成AIやIoTの台頭で、依存度がさらに高まっている。目立たない存在ではあるが、現代の情報社会を支える「縁の下の力持ち」と言える。
総務省「令和6年版情報通信白書」によれば、日本のデータセンターサービス市場は2022年に2兆938億円となり、2027年には4兆1862億円へ拡大する見通しだ。この成長市場の先陣を切って注目されたのが、千葉県北西部の印西市である。
――といった条件に恵まれた同市では、急速にデータセンターの集積が進んだ。
しかし現在、千葉ニュータウン中央駅前の商業地区における新たな建設計画を巡って、住民の反対が起きている。
「駅前に人が出入りしない施設が建ってよいのか」といった声が市に100件以上寄せられているという。データセンターは本当に地域の発展に資するのか。あるいは、都市機能との不協和を生む存在なのか。社会インフラとしての役割と地域との共存が、いま改めて問われている。
千葉県印西市が“データセンター銀座”として注目される背景には、10年以上にわたる都市基盤の着実な整備と災害リスクの低さという地理的優位性がある。北総線や外環道・圏央道の整備により、東京からのアクセス利便性が大幅に向上した。地盤が堅牢で地震リスクが低いことから、企業の電算センターやバックアップ施設の立地先として高く評価されている。
データセンターの進出は2000年代初頭から始まった。郵政省(当時)や大手銀行が相次いで立地を決めた。加えて、印西市と千葉県は企業誘致のため、優遇税制や助成制度を整備した。これがデータセンター需要と合致し、進出が増加した。
結果として、印西市の財政に占めるデータセンターの比重は大きくなっている。2024年度の市税収入に占める固定資産税の割合は「51.0%」に達し、市税の過半数を占めた。固定資産税収は2020年度の101億6300万円から2024年度には154億9500万円へと、5年間で45億600万円増加した。
この成果により、印西市の財政力指数は全国平均を大幅に上回る「1.04」となっている。財政力指数とは、地方自治体の財政基盤の強さを示す指標である。自治体が独自にどれだけ財源を確保できるかを示し、標準的な行政サービスを提供するために必要な経費を賄う能力を表す。
数値は0を基準とし、1以上であれば自治体が自律的に財政運営できる余裕があると判断される。逆に1未満の場合は国からの財政支援に依存する度合いが高いことを意味する。地方交付税の配分基準のひとつとしても用いられ、自治体の財政健全度や政策実行力の評価に重要な役割を果たしている。
“データセンター銀座”としての集積効果は明確である。
印西市の成功モデルが注目される中、他の自治体も同様の戦略を模索している。
代表例が神奈川県北部に位置する相模原市だ。市南部の麻溝台・新磯野地区では土地区画整理事業が進行中で、大規模なデータセンター集積地の形成が計画されている。実現すれば、面積では印西市を上回る可能性もある。
アクセス面では、2013(平成25)年開通の圏央道・相模原愛川インターチェンジがあり、都心や東名方面への接続に優れる。既に三井不動産をはじめ国内外の各社が進出を進めており、将来の展望は明るい。こうした新たなライバルの出現により、日本国内のデータセンター誘致競争はさらに激化するだろう。一方で、集積が進む地域では住民の懸念の声も上がり始めている。
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