ユニリーバが「広告費の半分」をSNSにつぎ込むワケ マーケターはSNS広告の“リスク”とどう向き合うべきかMarketing Dive

» 2025年09月17日 09時00分 公開
[Peter AdamsMarketing Dive]
Marketing Dive

 2025年、メディアのTikTok化が主流となり、CPG(Consumer Packaged Goods:一般消費財)ブランドはソーシャル・ファーストモデルへの転換を進めている。大手企業は広告予算の最大半分をソーシャルに投じ、さらに俊敏な競合ブランドを数十億ドルで買収している。その背景には、Z世代の消費者獲得競争の激化と、長年の大量到達の手段として機能してきた従来型テレビの衰退がある。

 「これは、次世代の取り込みとFOMO(取り残される恐怖)に関係している」と、米広告代理店Mādinのニック・ヴァレンティCEOはメールでこう述べている。「Z世代は、もはや情報を探さない。普段から、彼らは身近なフィードから情報を得ている。嗜好(しこう)も信頼もアイデンティティーも、全てそこで形成されている」

 こうした流れは単なる予算変更にとどまらない。マーケターは、SNSやインフルエンサーに精通したサービスを求め、専任エージェンシーを指名したり、社内に新部署を立ち上げたりしている。そこには、存在意義の問いがある。すなわち、厳格に定義されたブランド価値や「清潔すぎる」ほどのイメージを持つレガシーCPGが、ソーシャルネイティブな新興企業に対抗する中で、どこまでコントロールを手放せるのかという点である。

 「成功例は毎年増えている。ブランドの大半は、ソーシャルを本当に理解し、自社の市場を奪っているインディーブランドを挙げられるはずだ」と、米広告代理店Movers+Shakersの共同創業者兼CEOのエヴァン・ホロウィッツ氏は言う。

CPGマーケティングがソーシャル・ファーストへ移行する理由

 調査ではソーシャルの長期的な成長と、近年はTikTokが広めたアルゴリズム型のショート動画フォーマットへの関心が急増していることが協調されている。英マーケティング支援企業WARCのデータによると、米国における2024年のソーシャル広告費は約794億ドルに達し、2020年比で90%以上増加した。インフルエンサーについては言うまでもなく、Z世代にとって文化的トレンドセッターであり、自らブランド起業家にもなっている。

 ソーシャルの成長は一貫して続いてきたが、2025年のCPG企業はソーシャル・ファーストの必要性についてより公に語るようになっている。2025年3月、カテゴリー最大手の一つであるユニリーバは、より細かいレベルで世界中の消費者とつながるために、広告費の半分をソーシャルにシフトし、インフルエンサーとの連携を20倍に拡大すると発表した。

 「インドには1万9000の郵便番号があり、ブラジルには5764の自治体がある。私は、各地にインフルエンサーを配置したい」と、ユニリーバのフェルナンド・フェルナンデス氏は、新CEOに就任後、この取り組みを全力で推進していくと強調した。

 ダヴやヘルマンズマヨネーズを傘下に持つユニリーバは、2024年のマーケティング投資を約10億ドル増額し、過去10年以上で最大規模となった。これは、ソーシャルやクリエイター経済全体に対する同社の影響力を示している。

 他のCPG企業は、ユニリーバほど派手な発表はしていないが、とっぴなミーム投稿から奇抜なコラボ商品、フレーバー開発まで、オンラインで話題を呼ぶためのソーシャル・ファーストトレンドが広がりつつある。

 資金力のある企業は、買収によってソーシャルの知見を強化している。ペプシコによるプレバイオティクスソーダのポッピを約20億ドルで買収したケースや、ユニリーバが約15億ドルで消費者直販の石けんメーカー、ドクター・スクワッチを買収した例が代表的だ。ユニリーバは買収発表時、ドクター・スクワッチの「バイラルなソーシャル・ファースト・マーケティング戦略、インフルエンサーや著名人との協業、文化的に関連性の高いコラボレーション」を強調した。

 「ブランドコントロールとクリエイターの信頼性という関係は、チャレンジャーブランドの成功によって完全に変化した。大規模な買収が、このモデルの正当性を裏づけた」と米マーケティング企業・Open Influenceのパートナーシップ担当上級副社長であるジェイソン・ウェーバー氏は語る。

ソーシャル・ファースト戦略は単なる予算の話ではない

 ソーシャル・ファーストのマーケティングをマスターするには、予算を動かしたり、小規模競合を買収したりするだけでは不十分だ。ユニリーバは、ソーシャル・ファーストの進化において、業界全体の方向性を示す取り組みを進めている。

 同社は2025年7月、社内グラフィックデザイン部門「Sketch Pro」を立ち上げた。これはGoogleやAdobeなどの最新の生成AI技術を活用し、Persilなど家庭用ブランドが迅速にコンテンツを量産できるようにする取り組みだ。IPG Studiosと共同で開発されたSketch Proは「従来のテレビ中心の制作からソーシャル・ファーストへの転換」を目指しており、新しいAIツールがソーシャルコンテンツ制作をさらに加速させる可能性を示している。

 クリエイターコンテンツを対象にプログラマティック広告を展開するAgentioの共同創業者兼CEO、アーサー・レオポルド氏はこう語る。「YouTubeは世界最大のテレビ視聴プラットフォームになり、シェアは12.5%に達している。AIツールのおかげで、コンテンツ制作コストが実質的にゼロになった。今後、3年から5年の間にどうなるだろうか?」

 他のブランドもソーシャル分野に特化するため、マーケティング体制を拡充している。2025年6月、ペプシコの米国飲料部門は社内エージェンシーをVaynerMediaと連携させ、ペプシやマウンテンデューといったブランドが各プラットフォームで「カルチャーに通じた存在」として発信し続けられるよう支援している。飲料業界誌『ビバレッジ・ダイジェスト』のデータによれば、米国におけるペプシのシェアは低下し、2025年にはコカ・コーラのスプライトが3位に浮上している。

 ペプシコは、大規模キャンペーンといった従来型の施策は既存パートナーが引き続き担当し、VaynerMediaとの提携はソーシャルが求める常時稼働型アプローチを支えるためだと説明した。

 しかし、レガシーCPGにとってソーシャル・ファーストへの道のりは長い。コスト構造やクリエイティブ制作など従来のやり方と代理店が衝突し、承認プロセスが従来のメディア並みに遅い場合がある。だが、ソーシャルではトレンドが一夜にして変わるため、これでは対応できない。

 先のレオポルド氏はこう指摘する。「プロセスには多くの摩擦が伴う。1つの統合施策や投稿を公開するまでに何カ月も交渉を重ねることがある。そのため、ペイドメディアチームはこれまで関与しようとしなかったのだ」

ブランドイメージと「柔軟性」における課題

 専門家によれば、レガシーCPGのマーケターは、自社が打ち出そうとする現代的なイメージと、実際に許容できるリスクとの乖離(かいり)に向き合う必要がある。良識の境界線ギリギリの表現や政治家の失言、ラップ界の抗争を題材にしたネタを受け入れるのか、物議を醸すインフルエンサーにコンテンツを任せるのか――。こうした課題は、単に広告費を増やすだけでは解決できない。

 「資金を投じるだけでは、良い仕事を阻む組織的な問題は解決しない。今も多くのブランドがMetaやTikTokなどに巨額の広告費を投じているが、彼らのクリエイティブを見れば『これは大金の無駄だ』と分かる」と、ホロウィッツ氏は述べている

制約を緩めて変化を受け入れる

 ソーシャルは従来のテレビ市場とは異なり、保証が乏しい。囲い込まれたプラットフォームには、業界全体で統一された測定基準も存在しない。コンテンツのモデレーションも常に変化しており、多くのプラットフォームがコミュニティーノート型の自主規制を導入している。

 YouTubeやInstagramが、突如、あるジャンルを収益化しやすいと判断したり、TikTokが米国で禁止される可能性に直面したりと、ソーシャルには常に変化のリスクが伴う。もっとも、トランプ政権の最新の発表を踏まえると、その可能性は後退している。

 「依然として、ソーシャルに予算を投じることは、従来の方法で訓練を受けたCMOやCFO(最高財務責任者)にとってリスクである。指標もクリエイティブの基準も、これまでほど発達していない。これは、メディアとクリエイティブに対する考え方の根本的な変化である」とホロウィッツ氏は述べる。

 多くの制度や基準が未整備であっても、今、ソーシャル・ファーストに踏み込むことは正しい選択かもしれない。ユニリーバのような大手企業が全力を注いでいる以上、今後はさらに競争が激化し、目立つためのコストは高まる一方だ。

 「レガシーCPGにとって、待つことが本当のリスクだ」と、Mādinのヴァレンティ氏は述べている。「測定ツールやブランドセーフティツールは役立つが、より本質的な真実は行動の問題だ。次世代が意味を見いだす場に存在しなければ、彼らにとって存在意義がないのだ」

© Industry Dive. All rights reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR