エース社員だけに頼るな 楽天で学んだ、属人化から脱却する方法

» 2025年10月16日 08時00分 公開
[福永博臣楽天で学んだ 会社を急成長させるPDCA−S]

この記事は、福永博臣氏の著書『楽天で学んだ 会社を急成長させるPDCA−S 』(日本能率協会マネジメントセンター、2025年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。


 1997年にわずか13店舗、32万円の売り上げから始まった楽天が、現在国内EC流通総額6兆円規模の世界的企業に至った成長の秘訣は何か――。楽天市場のエンジニアリーダーや開発部長として活躍してきた著者が、楽天で学んだ「仮説→実行→検証→仕組化」を基にしたPDCA-S(※)を紹介します。

(※)PDCA-S:PDCA(仮説→実行→検証)に、仕組み化(Systematizing)と横展開(Scale-Out)の「S」を加えてまとめた楽天流の組織成長メソッド。

 多くの会社では、特定の社員の能力に依存してしまい、その社員が辞めると業務の停滞や混乱が生じるケースが後を絶ちません。

 一方で本当に強い組織は、個々の人材に頼るのではなく、個々の人材のナレッジシェアを継続的に行うことによって組織のパフォーマンスを維持・向上させています。

 企業の成長を支えるのは「人」です。強い組織は仕組み化によって個々の「人材」を企業の「人財」へと変え、組織としての安定性と成長性を確保しているのです。

本当に強い組織は、個々の人材に頼らず個々の人材のナレッジシェアを継続的に進めている。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

属人化を防ぐための仕組みとは?

 例えば、営業部門において特定のエース社員だけが成約率を高く維持している場合、その社員が退職すれば売り上げが大きく落ち込む可能性があります。同様に、IT部門で特定のエンジニアしかシステムの構造を理解していない場合、そのエンジニアがいなくなると、運用やトラブル対応ができなくなるリスクがあります。また、優秀な社員だけでなく、ある業務を特定の人だけが行っている場合も、同様の事象が起こり得ます。

 こうした属人化を防ぐためには、優秀な社員の知見を組織全体で共有する仕組み化が不可欠です。具体的には、

  • 優秀な社員の業務プロセスをマニュアル化・標準化する
  • うまく行ったことを社内で共有する
  • 成功事例・パターンをもとに社内研修を行う

――などの活動を行います。

 これにより、一部の社員にしかできなかったことが、他の多くの社員にもできるようになります。長年の経験からしか得られなかったこと、一人試行錯誤してもうまくいかなかったことを、仕組みが補ってくれるようになるのです。

 社員全員の知識とスキルを底上げすることで、「一部に優秀な社員がいても企業は成長できない」という問題を解消することができます。もちろん、全ての社員が均一に同じことを同じパフォーマンスでできるようになるわけではありません。

 マニュアルを整備し、研修を行ったとしても個人差は出ます。しかし、これまでの一部の社員に依存しないと業務が回らない状況からは抜け出し、脱属人化を果たせるのです。

仕組み化で離職率の低下も期待

 業務が特定の社員に依存していると、その社員を異動させることは難しくなりますが、これらの活動は社員の退職に備えるだけでなく、社員を適切なタイミングで適切なポジションに配置することも可能にします。会社の将来を担う幹部を育てようと思えば、企業によってはいろいろな業務を経験させることも必要でしょう。

 また、戦略的な異動や社員の希望の職種・業務に就かせてあげることは、一般社員にとってもキャリアの構築になりますし、その社員のモチベーションアップにもつながります。仕組み化で配置転換がしやすくなるため、離職率の低下が期待できるのです。

 厚生労働省によると、新規の求人件数に占める採用件数の割合(充足率)は2010年の30%超から2023年は10%程度までに下がっており、多くの企業が人材不足に悩んでいます。優秀な人材は大手企業に高い給与で囲われてしまい、転職市場に出回りにくくなっています。

 しかし、新たに優秀な人材を外に求めることが難しければ、中にいる人材を育てればよいだけです。社員の成長に必要なノウハウは御社の中にすでにあります。企業活動を行えている時点で、売り上げを上げる方法も業務を行う知識も存在します。それらのノウハウを言語化して社内で活用し、今いる人材を「人財」へと変えていきましょう。

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