「交通政策白書」が示す地方交通の現状と将来:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
「交通政策白書」に目を通した感想は「地方鉄道は厳しい」だった。国の責任で国民の移動手段を確保するにあたって、やはり地方鉄道はコストがかかりすぎるのだろう。白書は国の方針として「地方はバス」と宣言しているようにみえる。
各種交通手段の旅客人員の推移を見ると、鉄道が圧倒的なシェアを持ち、近年は増加傾向、乗合バスはツアーバスの乗合バスへの転換があり一時的に増加したが、その後は微減、タクシーも減少傾向。一方で、LCC(格安航空会社)の参入により航空旅客が急上昇している。鉄道部門の中でも新幹線は急伸しており、公共交通については長距離輸送に伸びしろがありそうだ。しかし、地方交通の主な担い手の乗合バスについては厳しい数字となった。
鉄道旅客人員の集計を見ると、旅客輸送人員ではJR(国鉄)よりも大手私鉄の方が多い。ただし、人キロでみるとJRがはるかに多い。JRは長距離輸送の担い手だ。これに対して地方鉄道と公営交通は低めの安定。いや、既に最低限の水準で、これ以下にはならない、といったところか。
地方鉄道について注目すべきは輸送人員ではなく施設の老朽化だ。地方鉄道が運行する車両の半分は車齢31年以上である。経営難で新車を導入できず、中古車の導入が多いからだ。その車両の古さを観光要素とするしたたかな地方鉄道もある。ただし、古い車両はそれなりに整備費用もかさむから、やはり地方鉄道の負担ではある。
もっと深刻なデータはトンネルと鉄橋の設置経過年数だ。50年以上がほとんどで、80年も多く、100年を超える施設も少なくない。こちらの改築、建て替え費用は深刻だろう。地方鉄道自身では解決できない。自治体や国の支援が必要だ。では、その支援をすべきか否か。白書を読む限り、残念ながら国の支援は期待できない。
白書は地方の交通体系において「コンパクトシティ」「地方集約拠点のネットワーク」を掲げている。前者はBRTとLRT、後者はコミュニティバスや乗合タクシーが適していると提言した。
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