「交通政策白書」が示す地方交通の現状と将来:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
「交通政策白書」に目を通した感想は「地方鉄道は厳しい」だった。国の責任で国民の移動手段を確保するにあたって、やはり地方鉄道はコストがかかりすぎるのだろう。白書は国の方針として「地方はバス」と宣言しているようにみえる。
第III部・第IV部 地方鉄道の現状がよく分かる
第III部は「平成26(2014)年度交通に関して講じた施策」、第IV部は「平成27(2015)年度交通に関して講じようとする施策」で、どちらも陸海空の交通事業全般にわたり、新しい交通システム技術やバリアフリー、人材育成など広範囲にわたる。ただし、どちらも地方交通の再生をトップに掲げており、この問題の重要性を示している。内容については第II部の事例の根拠となる法整備や仕組み作りである。
交通政策白書を一通り読んでおくと、最近の地方鉄道に関するニュースも理解しやすい。例えば、北近畿タンゴ鉄道とWILLER TRAINSの取り組みはまさにコンパクト・プラス・ネットワークの具現化だし、JR北海道が多数の無人駅を廃止しつつ、宗谷本線そのものの廃止に言及しない理由も「鉄道には都市間の輸送という大役がある」「ただし中間駅は地域交通の問題」と切り分けた結果だと言える。JR東日本が気仙沼線と大船渡線のBRTを継続し、鉄道の復活はしないという方針だ。これも国の方針に沿った処置と言える。
地方交通において交通政策白書が掲げたコンパクト・プラス・ネットワークに沿うならば、地方鉄道の役割はかなり限定的だ。鉄道は大都市、または大都市間の交通手段のもの。そこは国としても支援していくだろう。しかし、地方でどうしても鉄道を残したいなら「国の方針とは異なるから支援できない。自治体や交通事業者で解決しなさい」と言われそうだ。
そうなると、JR北海道だけではなく、ほかのJR会社についても地方路線については撤退、あるいはBRTへの転換が進みそうだ。例えば、JR東海の名松線は大雨被害で不通となり、JR東海がバス転換を提案。自治体の働きかけで鉄道の復旧整備が進められている。しかし、国の方針が固まったからには、今後、同様の事例で鉄道が復活することはないだろう。
地方に住む人の交通を維持する手段として、鉄道である必要はない。BRTでもデマンドバスでも、もっと便利な方法があればそちらを選択すべきだ。鉄道好きとしては寂しいけれど、地方交通の変革はもう始まってしまった。
関連記事
- 北近畿に異変アリ! 異業種参入のバス会社が鉄道事業を託された理由
国土交通省は3月11日、北近畿タンゴ鉄道と沿線自治体、ウィラートレインズによる鉄道事業再構築実施計画を認定した。4月1日から「京都丹後鉄道」が発足する。その背景には何があったのか……。 - 鉄道からバス転換で浮かび上がる、ローカル線の現実
JR東日本は岩泉線のバス転換方針を発表した。鉄道復旧を望む地元は落胆し、やがて反発へ向かうだろう。プレスリリースにはローカル鉄道の厳しい現実を示しているが、奇跡の復活はあるのだろうか。 - それでも「鉄道が必要」──三陸鉄道に見る「三陸縦貫鉄道復活」への道と将来
東日本大震災から3年を経て、三陸鉄道が全線復旧した。鉄道以外にいくつかの手段が模索される中、今回それぞれの交通システムを体験して分かった。それでも「鉄道が必要だ」と。 - 地方鉄道が、バスやトラックに負ける日
JR西日本は10月から、ローカル線「三江線」の増発実験を実施する。ただし、増発する便は列車ではなく「バス」だ。これは鉄道廃止の布石だろうか。そこにローカル線の厳しい実情がうかがえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.