国連職員からノンフィクション作家へ――川内有緒さんインタビュー(後編):人を描くことで見えてくるもの(3/3 ページ)
国連職員からノンフィクション作家へ。一見突拍子もない「転職」に見えるが、それまでの仕事の経験と時間が、彼女の「新たな夢」の後押しとなった。
孤独を1人でもむ時間
――いまも、発表媒体は未定だけれどひとまず書いている、という企画をいろいろと抱えていらっしゃる?
いつも、4つか5つくらい「これやろうかな」ってものがあります。結局、何になるか分かんないものでも、それを自分の中で1人でもんでる時間が好きなんだと思います。「自由に書きたい」って言うと偉そうに聞こえるかもしれませんが、私はとにかく、その孤独な時間が好きなんですよね。
それが1つの本になるまで並走してくれる編集者や、友人たちに助けられる部分も大きいですが、創作に関してはみんな孤独。そういうのをやめたくないんです。私は、人から求められて書きたいものが見つかるタイプではなくて、誰にも求められてないものにやる気をだすタイプなので。
もちろん、読者の方から感想をもらったり……特にウェブだとコメントもダイレクトにもらえるので、そこから次のものにつながったりする楽しみもあるのですが。
――例えば、どんな企画が動いていらっしゃるのでしょうか。
いま一番優先順位が高いのは、「大切な人の死を悼む」ことについて、いろいろな人に話を聞いてまとめる……という仕事。これは本になる予定です。
それから、何年かかけて、ある人の評伝を書きたいなと思って模索中です。存命の方で、ご自身からOKは出ているので、本人と周辺の取材をこれから始めるところ。ただ、その方の過去何十年かぶんの資料がダンボール10箱くらいあって。相当時間はかかりそうです。2年後くらいには正式にお名前も発表できるかな。
人ひとりを描くことで何が見えてくるかなっていうのは前からすごくやってみたかったし、すごく魅力的な人なので、良いものにはなるのではないかと自負しています。日本のここ30年くらいが映せるような作品になると。
――やはりこれからも、人を書くっていうのが核になりそうですね。
そうなるのかなあ。意識してるわけじゃないんですけど、結局だんだん人になっていくんですよね(笑)。
「好きなことが仕事になる」という充足、自由はかけがえのないものだろう。もちろん、フリーランスである以上、金銭的な不安定は免れえない。しかしその「自由」のためなら、必要なことはなんでもやるし、なんでもできるだろうという覚悟がある――と川内さんは言う。
好きなことで生きていくというのは、単なる気ままな暮らしとは違う。
ただ、「これが私にとって大事なことだ」という外せない核を持って、それを守り通すという、ある意味「攻め」の生き方なのかもしれない。
その核は、会社や社会に与えられるものではなく、自分で選び取ったものだ。それこそが「自由」であり、そんな「好きなことで、生きていく」には、確かな強さと説得力がにじむのだ。(Yukimi Hiroyasu)
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