「しまむら」が「ナチスのマーク付き商品」を売ってしまった理由:スピン経済の歩き方(1/4 ページ)
衣料品大手「しまむら」の一部店舗で、ナチスドイツのハーケンクロイツをあしらった商品が売られていたので、ちょっとした騒ぎになっている。スペインのアパレルブランド「ZARA」でも同じような問題があったのに、なぜ「しまむら」でも……。
スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
衣料品大手「しまむら」の一部店舗で、ナチスドイツのハーケンクロイツ(カギ十字)をあしらったようなペンダントとタンクトップが980円(税込み)で売られていたとして問題になっている。
1カ月前から売られていたものを今月19日に店を訪れた客が画像付きでツイート。ネット炎上をマスコミが追いかけるという毎度お馴染みのサイクルで、20日には販売見合わせになった。
「仏教のありがたいマークじゃないか」という好意的な解釈をする人々もいたが、ナチスの鉄十字勲章と並べてみると、2020年東京五輪のエンブレムをデザインした佐野研二郎さんの作品群同様に元ネタとピタッとハマる。フランスパン問題で一躍脚光を浴びたトレース技術がここでも用いられている可能性が高い。
だが、「しまむら」が佐野さんのケースと大きく異なるのは、ハーケンクロイツのパクりだと判明してからもなお擁護(ようご)する声が多いことである。
「グローバル企業ならいざしらずドメドメの国内企業に欧米の理屈を押し付けるな」とか「行き過ぎた規制」という意見が多く、あげくの果てに店舗の従業員に「使ってはいけないマークだ」と苦言を呈した人物のほうが逆にネット上で中傷されるという事態にまで発展した。
かつてエノラゲイの搭乗員が原爆投下記念Tシャツをつくって全米で売ってまわった時、日本側から「よくそんな不謹慎なことができるな」と怒りの抗議をしたが馬の耳に念仏だったように、自分たちの痛みを国や文化が異なる人々に理解をしてもらうのはかなり難しい。「あのマークのなにが問題なの」と首をかしげる日本人が一定数いるのも当然かもしれない。
ただ、企業の経営という観点からみると、今回のナチスマーク騒動はかなり深刻な問題だと思っている。リスクの芽を事前に発見し、それを未然に防ぐ策を講じて組織運営にいかすという「フィードバック」が働いていない恐れがあるためだ。
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