水害復旧に鉄道の出番なし? 利益優先が国土を衰弱させる:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)
今月の台風18号による大雨は鉄道の被害も大きく、関東鉄道常総線の冠水など復旧の目処が立たない路線がいくつかある。そして各方面の復旧作業が進む中、大量のがれき処理問題が浮上した。東日本大震災のように、鉄道貨物によるがれき輸送は実施されないのか?
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
大量のがれき処理をどうする?
鬼怒川決壊のニュース映像は衝撃的だった。家が泥水に流され、町が水没する様子は東日本大震災の津波を想起させた。宮城県では津波被害に遭った方が、また水難に遭っていると聞き胸が痛んだ。現在も復旧作業中で、各地からボランティアの皆さんも駆けつけているという。こんなとき、小遣い程度の募金しかできない自分が情けない。
鉄道に関して言えば、今回被災し、いまだ運休区間がある関東鉄道、小湊鐵道、野岩鉄道、東武宇都宮線、JR東日本只見線はどれも旅の魅力がある路線ばかり。復旧の後はぜひ訪れたいし、機会を見つけて沿線の魅力を広めていきたい。しかし、それは復旧後の話。今は現状を改善すべきである。1日も早く復旧してほしい。
ところで、復旧、復興作業の段階に入り、東日本大震災と同じ問題が起きている。大量のがれき処理だ。報道によると、鬼怒川と小貝川に挟まれた茨城県常総市の被害が大きく、茨城県の推計では災害廃棄物が約2万4000トンに及ぶという。これは常総市の年間廃棄物量の約1.36倍にあたる。たった2日で1年4カ月分の廃棄物が発生したという計算だ。
この廃棄物発生の見積もりは「床上浸水が1世帯当たりの4.6トン、床下浸水は1世帯当たりの0.62トン」という環境省の基準で機械的に算出しただけだ。実際にはどちらでも家屋取り壊しとなる事例があるだろうし、がれきはもっと増える。共同通信が各紙に配信した記事では、常総市だけで十数万トンのがれき発生が予見されるという。
鬼怒川は下流で利根川に合流するため、鬼怒川が押し流したがれきや土砂、倒木などが利根川を伝って千葉県の銚子港に達している。インターネットでは、大量の廃棄物で港が埋め尽くされた様子も報告されている。このままでは漁ができない。
この水害廃棄物の処理に関する動きが伝わってこない。報道では常総市内6カ所に準備した仮の廃棄物置場は既に満杯で、他の市町村や民間企業の協力が必要。ところが、現地と周辺地域ではトラックや車も水没して、輸送手段も水害廃棄物と化している。
今、この地域に鉄道貨物の出番はないのだろうか。
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