水害復旧に鉄道の出番なし? 利益優先が国土を衰弱させる:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
今月の台風18号による大雨は鉄道の被害も大きく、関東鉄道常総線の冠水など復旧の目処が立たない路線がいくつかある。そして各方面の復旧作業が進む中、大量のがれき処理問題が浮上した。東日本大震災のように、鉄道貨物によるがれき輸送は実施されないのか?
東日本大震災ではJR貨物が活躍
東日本大震災では、がれき輸送に鉄道が活躍した。もっとも実施までに時間がかかった。地震と津波は2011年3月11日に発生。JR貨物のがれき輸送開始は同年9月19日からだった。仙台貨物ターミナルから東京貨物ターミナルへ1日1便のがれき輸送専用列車を設定している。当時は被災地から仙台までトラックで輸送していたけれど、同年10月9日からは石巻港駅から積み込めるようになった。
同年11月からは盛岡貨物ターミナル〜貨物ターミナル間のがれき輸送も開始された。三陸沿岸の宮古市でトラック搭載のコンテナにがれきを積み込み、盛岡でコンテナを貨車に積み替える。1便あたり約50トンの輸送力。11月に約1000トンを運んだ。同年12月からは仙台東京便に女川町のがれき輸送も加わった。このがれき列車は翌年のダイヤ改正以降も引き継がれた。輸送先は東京都内の指定処理場で、後に静岡県島田市など各地の自治体が受け入れた。
東日本大震災の場合、災害発生からJR貨物のがれき輸送開始まで半年かかっている。これは手続き上の問題もあっただろうけれど、それ以前に鉄道ルート自身の復旧を待つ必要があった。JR貨物自身も被災者であったし、機関車なども被災して稼働率が落ちている中で、燃油などの緊急輸送も担っていた。鉄道貨物輸送の頼もしさが、社会に強く認知されたと言える。
しかし現在、JR貨物は常総市などの水害廃棄物を輸送していない。JR貨物に問い合わせたところ、特に取り組んでいないとのことだった。もっとも、これはJR貨物の初動が遅いわけではない。貨物輸送は荷物を送り出す側と受け入れる側の準備が整って成立する。
JR貨物としては川崎市の廃棄物輸送で実績があり、廃棄物用コンテナも運用していた。東日本大震災のがれき輸送成立は、東京都などが廃棄物受け入れを決定したからできた。当時は知事の「鶴の一声」という印象もあった。今回は東京都に動きがない。東京都としても茨城県の要請がなければ対処できない。
しかし、東京都もJR貨物も東日本大震災で実績がある。困窮している茨城県と銚子市に対して、こちらから手を差し伸べたらいいと思う。
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