「介護離職ゼロ」のために優先すべきは介護スタッフの待遇改善(3/4 ページ)
政府は、特別養護老人ホームなどの介護施設を増やすため、首都圏の国有地90カ所を早ければ年内にも事業者に安く貸し出す方針だという。これはないよりはましだが、優先すべき政策ではない。
大半の施設において介護職に夜勤がつきものであることも事実である。また、排泄物の処理やおむつ替えなどの「下の世話」をすることや、入浴を手伝う際などに風呂場まで老人を抱えることも、職場によっては日常業務の一環である。
こうした事実・実態を踏まえた上で、それでも日本社会としては、介護施設にて働くスタッフの数を増やし、彼らが健康で不安の少ない社会生活を営めるようにしなければならない。そのためには介護スタッフの待遇を大きく改善するよう、政策的に誘導する必要がある。イメージを改善するだけではダメで、実態をよりよくしないといけないのである。
まず根本的には介護スタッフの給与水準を底上げする必要がある。社会的な期待と要請が高い職業なのに、いくら若い人が多いからといって全産業平均を大きく下回る現状は許されるものではない。
介護報酬制度を司る厚労省、そしてその背後で予算を握る財務省は、国家財政事情が厳しいからと今年4月からの介護報酬(つまり介護法人に対する支払い額)引き下げを実施したが(その際には介護職員の処遇改善を要望してはいたが)、それが長い目で介護スタッフの給与水準や労働環境の改善に対しネガティブな方向に働くことは容易に想像できる。あまりに目先のことしか考えていない策だ。
このまま無理に介護報酬を抑制し続ければ、やがて介護施設は大幅に不足し、高齢者を預けられない世帯の介護離職が急増し、家庭は崩壊、中核人材を突然に失う企業は混乱をきたして生産性と競争力を下げ、国と自治体の税収はかえって落ち込んでしまいかねない。目先の節約にばかり気を取られて本末転倒の事態を招く愚策なのである。
すべきことは全く逆だ。高齢者が急増する当面の間、他の予算は多少抑制してでも介護報酬を増やすしか、介護離職を減らす効果的な方法は基本的にはない。さらに介護法人の収入を増加させるため、制度対象外のサービスを増やすように経営努力を促すことは必要だが、あくまで補足に過ぎないことは理解すべきだ。
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