「介護離職ゼロ」のために優先すべきは介護スタッフの待遇改善(4/4 ページ)
政府は、特別養護老人ホームなどの介護施設を増やすため、首都圏の国有地90カ所を早ければ年内にも事業者に安く貸し出す方針だという。これはないよりはましだが、優先すべき政策ではない。
もう一つ、介護スタッフの労働環境に大きく影響するのは夜勤の存在である。他の「キツい」とされる業務として挙げられる排泄物の処理やおむつ替えなどの「下の世話」は、介護スタッフの方々によると慣れると大丈夫だとのことだし、入浴などの際に老人を抱えるといった一見重労働な作業は男性スタッフがいれば何とかなるという。
しかし夜勤が勤務シフトに混じることで引き起こされる体調の崩れや疲労蓄積は、慣れや工夫で何とかなる問題ではない。特に少人数の施設では夜勤の頻度が多かったり、一人勤務だったりする実態があり、いくらやりがいに燃えて就労したスタッフをも挫けさせるキツさなのである。
一人夜勤時に「眠れない」「ご飯はまだか」といった呼び出しが続出するかたわらで、複数の利用者が徘徊するような事態が一晩じゅう続いたら、どんなタフな精神力と体力がある人でもまいってしまう。この事態を改善するよう経営者に要望しても、「我慢してくれ、いずれ何とかするから」といった言葉だけで何カ月も放っておかれたら、誰でも退職を真剣に考えるだろう。
一番効果的な解決法は、夜勤専門のスタッフを雇い、大半のスタッフを日中だけの勤務として、両者を別々の勤務シフトにすることだ。もちろん夜勤専門のスタッフには高めの給与を支払う必要があるが、日勤・夜勤の混在に比べ体調管理はずっと容易だという。日勤専門になる大半のスタッフからは、一番の悩みがなくなることで大歓迎されよう。
この体制を確立するためには人数を増やす必要が出てくる施設も少なからずあろう。そのためにも介護報酬の水準を底上げすることが求められるのだ。
その結果、将来さらに消費税アップという事態を招くかもしれない。しかしこうした改善によって介護スタッフが笑顔で働き続けることができ、介護現場の崩壊を食い止められるのであれば、「次は我が身(が介護利用)」と、現在の納税者たちも納得するはずである。
そして冒頭の過去記事でも指摘したが、介護保険と税金から支払われる介護報酬の多くは介護スタッフの給与として支払われ(資本産業でない介護業界の場合、労働者への支払い割合が多い)、それは各地元経済に環流してゆく性格のものだ。分かりやすくいえば、与党・自民党の好きな建設業よりも地方経済の活性化効果が高いということだ。公共政策としては惜しむ理由はない。
なお、念のために断っておくが、弊社には介護業界のクライアントはいない。(日沖博道)
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