「こだわりの○○」という言葉を使う店は、何もこだわっていない(絶対に):新連載・こだわりバカ(3/4 ページ)
街中に「こだわり」という言葉があふれている。「こだわりラーメン」「こだわり旅行」「こだわり葬儀」など。このようなこだわりのない使われ方に、コピーライターの川上徹也氏が燃えている。こだわりの原稿を読んでみたところ……。
何としても「決まり文句」を避けるという決意
もちろん空気コピーは「こだわり」だけではない。食を扱う業界では、他にもいろいろな「空気コピー」がはびこっている。「厳選した」「旬の」「伝統の」「極上の」などはその典型だ。
サービスに関しても同じだ。料理店や旅館などでよく見かける「真心をこめた」「丹精こめた」「心尽くしの」「おもてなし」などもすべて空気コピーだ。こんな言葉ならないほうが何百倍もマシだ。
大阪の毎日放送で『魔法のレストラン』という番組のプロデューサーである本郷義浩氏はその著書『うまい店の選び方魔法のルール39』(角川書店)の中で、以下のように述べている。
「こだわりの料理」「旬の食材」「伝統の技」
この3大禁句を、メニューやホームページ、チラシ、パンフレット、広報資料などに使っている店は、いくら口コミでよい評判を聞いても、店選びの選択肢に入れないことにしました。(中略)お店の側からすれば、食材、料理、シェフや料理長の経歴などに、とりたてて誇るべきもの、伝えるべきものが希薄な場合は、「こだわりの料理」「旬の食材」「伝統の技」という抽象的な表現を使って、「特別感」を出すしかないのかもしれません。
まさにその通り、と言いたくなる。つまり「こだわり」「厳選した」「伝統」などという言葉を使って表現しているということは「うちには何一つ自慢できることがないんです!」と宣言しているようなものなのだ。何も書くべきことがない時につい書いてしまう言葉、それが「こだわり」であり「厳選した」であり「伝統の技」である。
しかしこのような言葉を使うと、何となくそれらしいキャッチコピーや説明文を書けたような気になるから恐ろしい。書く側が頭に汗をかかずに楽して書いているにもかかわらず、何となくいいかなと思えてくる便利な言葉なのだ。だから、少なくともプロの書き手であればそのような空気コピーは書いてはいけない。
ただそうは言っても、そのような言葉を使わずに宣伝文句や店や料理の紹介を書くことはそう簡単なことではない。かくいう私だって、油断するとそんな空気コピーをついつい書いてしまいそうになる(こっそり書いたことだってある)。
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