日本がリードする「ロボット農業」、核となる衛星測位にも日本の技術があった:宇宙ビジネスの新潮流(1/2 ページ)
農業機械のロボット化が注目を集めている。その代表例が、自動走行を可能とするロボットトラクターだ。今回はその核となる技術として、革新的な製品を実現した企業の取り組みについて紹介したい。
以前のコラムで、衛星リモートセンシング技術を活用したIT農業に関して紹介した(関連記事)。「農業×IT」は今非常に注目されている分野であるが、近年は「スマート農機」と言われる農業機械のロボット化も進んでいるのをご存じだろうか。
その代表例が、自動走行を可能とするロボットトラクターであり、大手メーカー各社がこぞって開発中だ。自動走行技術の核となるのが、GPSに代表されるGNSS(Global Navigation Satellite System:全地球衛星航法システム)と言われる衛星測位技術である。
業界最大手のクボタは、近年GPSなどを活用したロボットトラクターの開発を進めており、業界3位の井関農機も開発中だったロボットトラクターを2015年に入り公開した。さらに日立造船、日立製作所、ヤンマーなどは今年3月までにオーストラリアで日本の独自衛星測位システムである準天頂衛星を活用したロボットトラクターの実験を行っている。
こうしたロボットトラクターに搭載される高精度GNSSモジュールで世界をリードするのが、マゼランシステムズジャパンだ。同社の創業は1980年代にまでさかのぼるが、当時GPS受信機が大型で数百万円〜1000万円と非常に高価だった時代に、低価格な小型携帯GPSモジュールを開発し、プレジャーボート市場を切り開いたパイオニア的存在である。
今回は、同社の創業時からこのビジネスに携わっている岸本信弘代表取締役にロボットトラクターの技術動向を伺った。
精度3センチの自動走行を実現
トラクターの自動走行は、昨今話題の自動車の自動走行と同じように、カメラをはじめとする車載センサーとGPSなどを組み合わせます。しかし、自動車との違いとして、トラクターを主に使用する農地は歩行者や自転車など環境による外乱が少ない一方で、整備されていない道なき道をどう走るかということが求められています。
具体的にはカメラやレーダーで前方確認や障害物検知をして安全確保し、GPSなどの測位衛星データをプライム情報として自己位置特定を行い、走行します。
加えて精度も重要です。例えば、稲作だと、稲と稲の間隔は40センチメートル程度です。トラクターのタイヤが稲を踏まないようにするためには、5センチ単位の精度が求められます。
しかしながら、従来のシステムでは精度がおおよそ20〜30センチにとどまるほか、移動中には高精度測位ができなくて、その都度トラクターを停めて、衛星データを受信する必要がありました。さらにはコスト的にも100〜200万円程度かかるなど、導入のための障壁が多かったです。
こうした中、当社では3センチレベルの精度を実現し、コストも従来の10分の1程度となる独自のGNSSモジュールを開発しました。本システムの特徴は、GPSに加えて、ロシアの衛星測位システムであるGLONASSの信号もマルチ受信し、独自推計モデルを作ることで安定測位を実現した点です。またRTKシステム(衛星以外に、地上に固定基地局を構えて、そこからの補正情報を利用し、移動するトラクターの位置精度を高める方法)を導入し、移動中の高精度測位も可能にしました。既に大手トラクターメーカー各社で技術実証が過去数年間に亘って行われており、今後量産へと移行していきます。
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