鉄道趣味系クラウドファンディング、成功の決め手は?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
クラウドファンディングは小規模な資金調達方法として定着した感がある。しかし、必ず成立するとは限らない。鉄道趣味系の案件から成功例と失敗例を考察した。
クラウドファンディング成功の条件は?
クラウドファンディングの成功と失敗の要因をまとめたい。しかし何だかモヤモヤする。そこで、711系電車保存プロジェクトを扱ったREADYFORに取材した。私の漫然とした考えをぶつけたところ、「立案者の信用」「自己資本率」「社会性」の3つが重要で、リターン(配布物)も大切だけど次点、と納得した。枠組みとしては、目標金額が低く、募集期間が長く、広報発信力が大きいほど成功しやすい。しかし、目標金額が低くても失敗し、高額でも短期間で成功する事例もある。ネットで話題になっても失敗する。
「47年間愛されて引退した北海道初の電車『赤電』を残したい!」の場合は、立案者の永山茂氏が旅行業界で実績があり、彼が活動する北海道鉄道観光資源研究会も活動実績である。そして、用地と輸送費用については賛助企業が現れた。レストランの広告塔という目的があるかもしれないけれど、レストランは電車とは関係なく開業する事業だ。「電車が見えるレストランを開きたい」ではなく「電車を保存したい」が目的だ。そして、ほとんど手立てができていて「あと234万円足りない」だった。
「ここまで頑張ったんです、でも足りない、というプロジェクトは成功しやすい」(READYFOR)。確かに、もう1つの寝台列車案件「廃車になったブルートレインを岩手県岩泉に届けたい、一口車掌募集中!」は、総額700万円の費用のうち、500万円は集めた。あと200万円足りない、だった。つまり、立案者と自己資本率が好条件。社会性については、711系電車の価値は鉄道ファンと地元の人々の嗜好(しこう)による。そして、結果として共感する人が多かった。
他の成功と失敗も、立案者の信用、自己資本率、社会性の点で結果に納得できる。成功の要因としてもう1つ、「結果を体験できる」がある。711系が保存されたら、見物に行ける。そこに自分の名前もある。これは嬉しい。列車ホテルが開業したときに宿泊の権利がある。これも嬉しい。一方、立案者の活動の広告、商品の販売、自己負担なしの企画だけ事案など、利己的な案件では、謝礼が魅力的でも賛同者は現れない。
趣味の案件は、同じ趣味を持つ人々から共感を得られる。その意味で成功へのステップを1段階上っている。次のステップへの後押しは還元だ。クラウドファンディングは投資といっても利回りを求めるわけではない。どちらかといえば寄付的な行為だ。参加者は物質的なリターンよりも感動を求めている。その期待に応えられるか、という要素が成功の扉を開くカギと言えそうだ。
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