自動車づくりの“日本回帰”を支えているのは?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
かつて中国をはじめ海外に生産工場を作った日本の製造業が、再び日本でのモノづくりにシフトチェンジしている。自動車についてはいくつかの点で日本に強みがあるという。
先進国のメリットは何か?
こうした途上国と先進国が戦っていくためには、単純な土地や労働単価のコストでは対抗できない。高付加価値の技術を投入することで、単位時間あたりの生産効率を高め、結果的に土地や人件費のコスト負担を薄めていくしかない。
今の日本はそうした面でどうだろうか? 製造ラインのロボット化が進んだ結果、生産効率が大幅に向上し、理屈の通り労働コストに多少の差があっても単位時間当たりの生産単価ではむしろ有利になる場合も出てきたのである。
しかし、いくら単位時間当たりの生産効率が上がっても、それに見合う販売力がなければ、結局は工場稼働率が落ちて、絵に描いた餅になりかねない。そこは解決できるのだろうか?
1つには「Made in Japan」が持つブランド力のメリットがある。しかしそういうブランド力を担保するのは結局、商品力と性能だ。自動車において特にコアになるのはシャシーの製造だ。クルマの総合的な性能について、大きな割合を占めるからだ。軽量で高剛性であることが、安全性にも走りにも燃費にも重大な影響を及ぼすほか、商品性をしっかり打ち出すためにはデザイン性も求められる。誰が乗ってもレベルが違うシャシーが作れたら、目的はかなり達成できるだろう。
それらを叶えるために求められるのが、素材と加工技術だ。日産は現行マーチをタイなど、世界の複数の拠点で生産できるようにするために、鋼板に対する要求性能を下げた。プレスや溶接の技術も途上国で加工できることを設計条件に組み入れた。その結果、デザイン的な制約が大きくなったのである。
プレスによって複雑な面を作るためには、鋼板の性能が極めて重要だ。性能が足りないとキツい曲面に追従しきれず鋼板が破断しまう。つまり、低い性能の鋼板を使うということは、プレスで作れる曲面をできる限り単純化しなくてはならない。マーチのぼってりとした緊張感のない面構成は、そうした事情で成立している。
高剛性なシャシーを実現するためには鋼板の高い性能が欠かせない。鋼板と一口に言っても、実はその性能はさまざまで、鉄鋼メーカーは自動車メーカーからの要求に合わせて、求められる性能の鋼板を作って納入している。自動車に使われている鉄板は、そこいらにあるものではなくオーダメイドなのだ。
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