三陸縦貫鉄道が終了へ……BRT自身の観光開発に期待:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
東日本大震災で被災した三陸沿岸の大船渡線、気仙沼線について、大船渡市長がBRTの本復旧を了承した。沿線市町村がBRT受け入れ容認という空気感の中で、大船渡市の踏み込んだ判断が決定打となる。両路線の鉄道復活は消えた。鉄道のない町という選択、厳しい未来への挑戦が始まる。
BRTの魅力を発信したい
河北新報電子版で、BRT関連の記事を追っていくと、沿線自治体は地域の足としてのBRTに好感のようだ。「鉄道復旧せず」に対する懸念は、仙台、東京方面からの観光客減少に集約される。南三陸町の観光客は前年度比で13%のマイナスという。ほかの沿線も同様の悩みを抱えている。観光復興への取り組みでJR東日本との連携を強化したいようだ。
鉄道がつながっていないことが、観光客にどのような影響を与えているか。統計的な資料は見当たらない。しかし、私のような鉄道ファンでなくても「バスで行くところ」への訪問意欲は「列車で行くところ」より減退するだろう。地域交通は地域だけで解決できるかもしれない。しかし「観光」というステージに上がれば、そこは全国区の競争だ。大都市の人々がどこへ向かうか。極論すれば、沖縄、京都、富士山、北陸、北海道などと三陸地域は同じ土俵に上がる。
近所のライバル、北三陸は、三陸鉄道を観光手段としても活用している。山田線沿岸区間の開通で、さらに観光誘客で盛り上がるだろう。しかし、盛以南の南三陸には観光列車が走る線路がない。おいしい魚、おいしい空気というけれど、高級魚のほとんどは築地送りという話も聞く。地域の味をどうアピールしていくか、味だけで勝負できるか。
しかし、南三陸は全国にはない観光の目玉がある。それは皮肉にもBRTそのものだ。いち鉄道ファンとして、鉄道廃止、BRT転換正式決定は残念だ。しかし、実際に乗ってみると、鉄道ファンとしては悔しいけれど、BRTは良くできている。鉄道時代の古びた駅舎より、新しいBRT駅の洗練された姿のほうが復興にふさわしいとも思った。そしてBRTシステムの快適さ。専用道区間はスイスイと走り、単線道路ながらバス同士のすれ違いも順調。計算されたダイヤ通りに走る。もともと線路だった高台区間や崖っぷちからの景色も良い。
JR東日本はBRTの観光利用を促進するために、観光タイプのバスを作った。気仙沼線は向かい合わせの座席を作り、大船渡線は窓向きの座席を設けている。路線バスの改造車だから、やや観光ムードには欠ける。大船渡線の窓向きの座席は良いアイデアだけど、北へ向かう便は海向きで良いとして、南へ行く場合は車両自体が転換してしまうから、ずっと山や崖面、住宅ばかりの景色である。
そもそも路線バスの改造車では、列車のようなゆったりとした空間にはならない。景色の良い道を走り、高速道路ではないためシートベルトも不要。そんなメリットを生かした観光タイプの車両がほしい。窓の位置が高い大型ハイデッカーバス、河口湖などで走っているオープントップバス、3人+3人の向かい合わせコンパートメント席もグループ旅行に最適だ。
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