青函トンネル「貨物新幹線」構想が導く鉄道の未来:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
北海道新幹線は青函トンネルを在来線の貨物列車と共用する。そのために本来の性能である時速260キロメートルを出せない。そこで国土交通省と関係各社は新幹線タイプの貨物列車を検討している。これは北海道新幹線の救済策だけではない。日本の鉄道貨物輸送の大改革につながるだろう。
青函だけではもったいない、関東へ、北陸へ、九州へ
貨物用新幹線(積み替え式)のデメリットである積み替え時間については、もっと良い解決案がある。青函区間だけではなく、そのまま関東へ、大宮駅の手前まで走らせるのだ。もちろん旅客用新幹線車両とは重量が異なるから、現存施設の補強は必要になるだろう。積み替え施設も必要で、建設費は膨大だ。しかし、ダイヤ上では可能である。
JR東日本が運営する各新幹線は共通の悩みを抱えている。線路は空いているにもかかわらず、増発できない構造だ。原因は東京駅〜大宮駅間の過密ダイヤにある。この区間は東北、北海道、秋田、山形、上越、北陸新幹線が集中する。そのため各新幹線の増発は難しい。秋田新幹線や山形新幹線のほとんどの列車は単独で入線できず、東北新幹線に連結している。
視点を変えれば、大宮、高崎、福島、盛岡と、東京から離れるほどダイヤに余裕がある。そこに貨物新幹線を走らせてはどうか。新青森と大宮を結ぶ距離を新幹線で運べたら、積み替え時間など従来の所要時間に比べたら小さなものだ。電車方式だから、大宮駅で折り返し、進路を変えても良い。新青森〜大宮〜金沢のルートを作れたら、日本海縦貫線に対する貨物特急ルートになる。
そうなると、北陸新幹線の大阪到達も重要な意味を持つ。北陸新幹線はそもそも、東海道新幹線の二重化ルートという役割もあった。しかし、JR東海がリニア方式で中央新幹線を建設すると、北陸新幹線に東京〜大阪間を二重化する意味は薄い。そこで北陸新幹線大阪到達である。大阪の先に山陽新幹線、九州新幹線がつながる。将来的に札幌から鹿児島までの高速貨物輸送ルートが完成する。函館のほっけでさつま揚げを作る日が来る。
こんな未来が見えたとき、四国の人々には新幹線を求める新たな理由が見つかるだろう。長崎新幹線は本当にフリーゲージでいいのか。山陰の人々は、これでもリニアを延ばしてほしいのか。リニア中央新幹線開業後、そのままだと名古屋、静岡は貨物新幹線ネットワークから取り残される。東京駅で東北新幹線と東海道新幹線の線路をつなぐ時が来るかもしれない。
おっと、途中から私の初夢の話になってしまった。北海道新幹線の貨物列車は大きな可能性を秘めている。どうか実現してほしい。
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