青函トンネル「貨物新幹線」構想が導く鉄道の未来:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
北海道新幹線は青函トンネルを在来線の貨物列車と共用する。そのために本来の性能である時速260キロメートルを出せない。そこで国土交通省と関係各社は新幹線タイプの貨物列車を検討している。これは北海道新幹線の救済策だけではない。日本の鉄道貨物輸送の大改革につながるだろう。
貨物用新幹線(積み替え式)のメリットは大きい
北海道新聞の記事によると、新たな貨物用新幹線案は、従来のトレイン・オン・トレインではないようだ。共用区間の両側にコンテナ積み替えターミナルを設置し、在来線貨物列車から新幹線貨物列車へ、クレーンを使ってコンテナを積み替える。フォークリフトが稼働するコンテナ貨物駅を想像すると、手間のかかる面倒な作業という印象になってしまう。
しかし、コンテナ埠頭で稼働するトランスファークレーン(参考動画)を応用すれば、1コンテナあたりの積み替えは2分もいらない。コンテナをつかむスプレッダという装置を改良すれば、JR型12フィートコンテナ5個を同時に処理できるかもしれない。新幹線貨物列車は1両につきコンテナ5個を搭載し、20両編成として在来線貨物列車の最長編成に対応させるという。
新幹線貨物列車はE5系「はやぶさ」の車両を基本として開発する。客室部分をコンテナ置き場とし、側壁を設置してすれ違い風速に対応する。トレイン・オン・トレインというよりも、トンネル内隔壁方式の「隔壁を列車に乗せてしまう案」とも言える。
貨物用新幹線(積み替え式)は、トレイン・オン・トレインより積み替えに時間がかかるかもしれない。しかし、そこに目をつぶっても良いと思えるほどのメリットがいくつもある。1つは軽いこと。トレイン・オン・トレインは新幹線型貨車に在来線型貨車も積み込む。しかし本来、運びたい荷物はコンテナだけだ。トレイン・オン・トレインは余計な「車輪付き荷台」を載せて走るから、列車自体が重くなってエネルギーの無駄だ。重心が高くなり不安定になりやすい。
動力分散方式の加速、減速性能も魅力だ。トレイン・オン・トレインは機関車による運行で、貨物用新幹線(積み替え式)は電車方式となる。機関車方式は貨車を単純な構造として安価にできるし、貨車そのものが軽いから空荷で戻すときに余分なエネルギーを使わない。しかし、加速に時間がかかる。減速時も同様で、機関車と貨車が同時にブレーキをかけたとしても、貨車側の積み荷の重さによって慣性力が働く。
電車方式は複数のモーターを搭載するから加速もいいし、減速時はそれぞれのモーターが強力なブレーキのように働く。回生ブレーキとなって発電もしてくれる。満載時もE5系と同等の性能を維持できるように作れば、青函トンネルは旅客列車も貨物列車も平行ダイヤで運行できる(関連記事)。列車の運行本数そのものを増やせるわけだ。
そして、貨物輸送の将来を考えたときに貨物用新幹線(積み替え式)こそふさわしい。貨物用新幹線(積み替え式)は「車輪付き荷台」が不要だから、コンテナの高さに余裕ができる。国内トラック輸送で普及している31フィートウイングコンテナや、国際航路で使われるISOコンテナにも対応できる。トレイン・オン・トレインはカッコいいし、良いアイデアだけど、残念ながらJR型12フィートコンテナにとらわれすぎた。
JR12フィートコンテナを使った国際輸送では、3個をラックコンテナにまとめ、40フィートISOコンテナとして使っている。このアイデアは載せ替えの効率化に使えそうだ(出典:国土交通省 コンテナ輸送効率化 鉄道輸送WG・平成16年度報告 資料 国際海上コンテナ内陸鉄道輸送の拡大に向けた調査・検討)
関連記事
- 2019年、東海道新幹線に大変革が訪れる
JR東海は10月22日、東海道新幹線のN700A追加投入と700系の2019年引退を発表した。東海道新幹線の電車が最高時速285キロメートルのN700Aに統一されると、東海道新幹線に劇的な変化が起きる。それは「のぞみ」所要時間の短縮だけにはとどまらない。 - 全国新幹線計画は「改軌論」の亡霊
明治5年に開業した日本の鉄道は、軌間(レールの間隔)を1067ミリメートルとした。しかし欧米の標準軌間は1435ミリメートルだ。狭軌の日本の鉄道は、速度も輸送力も欧米に劣った。そして今、日本も標準軌の新幹線で海外へ勝負に出た。ただ、これは諸刃の剣かもしれない。 - 試される鉄路、北海道新幹線は「本当はできる子」
2016年3月に北海道新幹線が開業する。運営主体のJR北海道にとって、今までの事故、不祥事などの暗い過去から立ち直り、新たな一歩を踏み出すチャンスだ。公開された列車ダイヤと航空ダイヤを比較してみたら、もっと盛り上がっていいと思った。 - 北海道新幹線に援軍が続々……JRグループの総力戦
北海道新幹線は所要時間や料金について、前評判が芳しくない。しかし開業を控えてJRグループと国土交通省が次々に活用施策を発表している。青春18きっぷ特例、貨物新幹線の開発計画だ。北海道新幹線に向けた総力戦は、全国規模の応用も期待できる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.